研究課題
本課題では「集団間の非適応的な遺伝子流動が組換え抑制の進化を促進する」という仮説の検証を,トゲウオ科魚類を対象にして進めている.研究では主に遺伝子流動のある欧米の淡水型と海型,遺伝子流動レベルが低い日本の淡水型と海型のそれぞれの間の適応関連ゲノム領域や組換え抑制領域の分布を比較することで仮説の検証を進めている.本年は3年計画の1年目であり,仮説検証の基盤となるデータを得ることが出来た.第一に,遺伝子流動がある欧米の集団では,淡水型と海型のイトヨの形態形質のQTLが特定の染色体に偏る傾向が知られていたが,遺伝子流動の無い日本の淡水型と海型の間ではそのような傾向は見られなかった.第二に,淡水適応の候補遺伝子についてゲノム編集実験を行い,機能するgRNAを設計することが出来た.第三に,日本の主要なトゲウオの集団を網羅したロングリードシーケンスのデータを得ることで,組換え抑制を引き起こすようなゲノム構造多型の有無を検証できるようになった.現在アセンブル作業を実行中であり,一部の集団について比較的良質なゲノム配列を得ることに成功している.第四に,組換え率のゲノム内分布が遺伝子流動レベルの異なる集団間で異なることを示唆するデータを得た.遺伝子流動が確認されている集団間では,染色体中央部で組換えが抑制される傾向にあったが,遺伝子流動レベルが低い集団間では,この組換え抑制の程度が低い傾向にあった.以上から遺伝子流動レベルが組替え抑制の進化に関連することを支持する結果を得た.
1: 当初の計画以上に進展している
次年度以降の研究の基盤が整えることが出来た点,現在の予備的なデータも仮説を支持した点,加えて当初の予定にはなかった,ゲノムアセンブルが実行可能なレベルのロングリードデータを多くの集団で得ることができた点から,期待以上に研究が進展したと判断できる.
今後は以下のデータを追加し,仮説の検証を進める.1.次年度に揃う予定のF2家系を用いて連鎖地図の作成し,組換え率のゲノム内分布を明らかにする.2. QTLマッピングを行い,淡水適応関連形質の遺伝的基盤のゲノム内分布を明らかにする.3. 今年度得たロングリードデータのアセンブル及びその集団間比較により構造多型を探索する.4. 今年度作成した淡水適応候補遺伝子についてのgRNAを用いたゲノム編集実験を継続して行う.5. Hi-Cによるクロマチンドメイン解析を行い,クロマチン構造と組換え率の関連を調べる.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)
Biological Journal of the Linnean Society
巻: - ページ: -
10.1093/biolinnean/blab033
Molecular Ecology
10.1111/mec.15896
巻: 29 ページ: 3071~3083
10.1111/mec.15415
Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
巻: 375 ページ: 20190548
10.1098/rstb.2019.0548