研究課題/領域番号 |
20J01623
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研究機関 | 株式会社関西メディカルネット(関西電力医学研究所) |
研究代表者 |
小西 義延 株式会社関西メディカルネット(関西電力医学研究所), 血液疾患研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | PGE2 / TXA2 / VEGF / カルシウム / 生体イメージング |
研究実績の概要 |
細胞傷害性T細胞の細胞傷害活性には不均一性が存在し、標的細胞との接触は必ずしも殺傷に繋がらない。本研究では細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の活性動態に着目し、標的細胞と接触した際のERK活性変化の制御機構の解明、そして傷害活性不均一性の規定機構の解明を試みた。先ず、マウス腫瘍細胞株を皮下担癌し腫瘍微小環境内を運動するT細胞ERK活性を可視化した。その結果、T細胞は腫瘍微小環境内で運動性に乏しいこと、ERK活性の動的な変化に乏しいこと、が明らかとなった。生体イメージング下ではがん細胞の死滅(カルシウムセンサーで評価)もほぼ観察されなかった。これらより、培養条件下と異なり生体内ではがん細胞殺傷時のERK活性動態を定量評価することは極めて困難との結論に至った。 一方、上記生体イメージングの過程で、BRAFV600E変異を有するメラノーマ細胞においてカルシウムシグナルが活発に活性化していることが明らかになった。このカルシウムシグナルはシクロオキシゲナーゼ(COX)を欠損した細胞株ではほとんど観察されなかった。更にCOXの有無によるカルシウムシグナル活性状態の差異は生体でのみ観察された。注目すべきことに、三量体Gタンパク質Gqファミリー特異的阻害剤投与によりこのカルシウムシグナルは速やかに抑制された。これらより、がん細胞由来のプロスタノイドを受容したがん微小環境内の宿主細胞が、Gqリガンドを放出しがん細胞にGqシグナルをもたらすという細胞間相互作用の存在が示唆された。CRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集によりGqリガンドがトロンボキサンA2 (TXA2)であることを見出している。更に、この宿主細胞によるTXA2の産生が血管内皮増殖因子(VEGF)に依存することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の段階で既に腫瘍微小環境内を運動するT細胞ERK活性の可視化に成功し、T細胞は腫瘍微小環境内で運動性に乏しいこと、ERK活性の動的な変化に乏しいこと、を明らかにしていた。本年度は、この生体イメージングの過程で偶然発見された、「がん細胞由来のプロスタノイドを受容したがん微小環境内の宿主細胞が、Gqリガンドを放出しがん細胞にGqシグナルをもたらす」という細胞間相互作用に関する仮説に基づき研究を発展させた。CRISPR/Cas9を用いた遺伝子編集技術を応用し、宿主細胞由来のGqリガンドがTXA2であることを明らかにした。更に、このTXA2が腫瘍微小環境内のVEGFに依存して放出されていること、VEGF-TXA2シグナルががん細胞由来のPGE2放出・抗腫瘍免疫応答の抑制に重要な役割を果たすことを見出した。 当初の期待と異なる事態に遭遇するも、その実験過程で得られた新たな知見を下に研究を発展させ一定の成果を得ることができたと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
VEGF-TXA2シグナル伝達経路は、腫瘍細胞由来のプロスタグランジンE2 (PGE2)産生の重要な制御因子であり、抗腫瘍免疫応答の抑制に極めて重要な役割を果たしていることがこれまでに明らかになっている。本研究により、初期腫瘍微小環境における宿主細胞とがん細胞との細胞間相互作用が、その後の抗腫瘍免疫応答を決定づける因子となることが示された。VEGF-TXA2シグナル伝達経路が、形成初期のみならず進行期においても腫瘍微小環境下におけるPGE2産生制御機構として役割を持つのかどうか、今後検討を加えていきたいと考えている。
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