炭素材料はエネルギーデバイスの電極などとして広く応用されている。一方で、構造が複雑であり原子レベルで描写することが極めて困難であるという問題がある。そこで本研究では、第一原理計算やマテリアルズ・インフォマティクスをはじめとした情報科学的手法により炭素材料の構造を原子レベルで描写する一般的手法の開発に挑戦する。 従来、アモルファスな炭素材料のナノ構造については様々な構造が提唱されているが、実験的に確実な構造モデルが完成した例は無い。そこで基本骨格に炭素原子を多く含み、かつ実験的に構造が既知となっている有機結晶をモデルに計算を行うことで、炭素骨格の計算に十分な計算条件を検討した。 モデルとして、全固体電池のLi固体電解質として開発されたLithium bis(fluorosulfonyl)imide/ disuccinonitrile{LiFSA(SN)2}結晶のLi伝導メカニズムの解明を試みた。第一原理計算により、LiFSA(SN)2の電子構造を計算したところ、HOMO軌道はFSA分子のN・O原子から構成され、LUMOはSN分子の炭素鎖の末端に存在するN原子から構成されていることが分かった。また、欠陥構造について全固体電池内の化学ポテンシャルを想定して計算してところ、正極側ではLi点欠陥が、負極側ではLi格子間原子が生成されやすいことが分かった。これは、正極側と負極側で異なるメカニズムでLi伝導が起きている可能性を示唆している。活性化エネルギーについてもLi点欠陥および格子間原子について計算を行い、それぞれ0.62eV、0.34eVであった。リチウムイオン伝導性を高める上で活性化エネルギーは小さいことが望ましいことから、前述の欠陥生成の傾向を合わせて考えると、正極側ではLiリッチな電極活物質を用いることで、より電池としての入出力特性が向上する可能性があることが分かる。
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