当該年度は、私がこれまでに取得してきた外生菌根菌群集データを用いての群集・多様性解析を主に進めた。 まず、現在広く用いられている距離ベースの群集解析手法を用いて、日本のスダジイ林とブナ林における外生菌根菌の群集構造を解析した。その結果、群集は調査地の気候や土壌環境ではなく、宿主樹種によって大きく異なることが明らかになった。さらに、外生菌根菌の群集パターンとパターンに関連する要因は樹種ごとに異なることが示された。まず、ブナの菌根菌群集は、調査地間の距離や土壌環境よりも気候が似た地点間で群集が似ていた。また、調査地間で共通する種が多く、多様性がスダジイよりも低かった。一方、スダジイ林では、気候や土壌環境よりも空間的に近い地点間で群集が似ていた。ブナ林よりも調査地間で共通種が少なく、地域的に限られた場所で出現する種が多かった。この結果は共同研究者とともに論文にまとめており、国際誌に投稿し、現在査読中である。 次に、個別の種ごとの出現予測を行うため、機械学習(ランダムフォレスト)を用いたモデル作成のための情報収集と予備解析を進めた。データ解析と並行して、野外調査を行った。当初、沖縄の南西諸島や九州のブナ科広葉樹林を中心に5地点ほどサンプリングを行う予定だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発出とそれに伴う所属・協力機関の活動方針により、野外調査は大きく制限された。そのため、現在特にデータが少ない中部山岳地帯に調査地を変更し、2地点のブナ科広葉樹林においてサンプリングを行なった。採集した樹木細根は、実験室に持ち帰り、実体顕微鏡下で菌根の選択と洗浄を行った。次年度以降にさらなる野外調査を行い、得られた菌根からDNA抽出を行う。MiSeqによるアンプリコンシーケンスとバイオインフォマティクス解析により、上記の外生菌根菌出現予測モデルの外挿データを得る。
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