研究課題/領域番号 |
20J01820
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
上野 秀貴 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | Tissue engineering / マイクロチップ / 厚膜感光性材料 / マイクロ・ナノデバイス / BioMEMS / Lab on a Chip |
研究実績の概要 |
本研究では、極めて高い空隙率のメッシュ構造を有するフレキシブルなポーラス材料を利用した簡易かつ細胞に低負荷な立体的な細胞組織の構築を目的としている。立体的な細胞組織は、平面的な細胞組織と比較してその代謝機能などが本来の生体に近く、創薬技術や再生医療技術への応用が期待されている。具体的には、細胞組織内部に対する栄養素と代謝物質の交換を考慮して目標とする細胞組織の厚みを200マイクロメートルとし、これまでの技術では作製の難しかったH形状の細胞組織の作製に取り組む。 上記の実現方法として、厚膜感光性材料と半導体加工技術を組み合わせてフレキシブルなポーラス材料を作製し、接着性細胞の細胞を播種し、細胞同士が接着した後に、ポーラス構造の伸縮と空隙からの液圧により細胞組織をリリースして回収する手法を提案する。 研究項目は3つあり、それぞれ①フレキシブルなポーラス構造の作製、②フレキシブルなポーラス構造上への細胞播種および培養方法の検討、③回収した細胞組織の機能の評価である。本年度は、研究次年度であるので、初年度に作製方法を決定したフレキシブルなポーラス材料の量産方法の検討と、作製した構造上への細胞の播種方法と培養方法を検討した。ポーラス構造の空隙率を高めることにより、受動的な液流れを用いて細胞を特定の箇所に集めることができることが分かった。また、2日程度の培養を行うことで、H形状をした細胞組織を回収できることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3つの研究項目として、①フレキシブルなポーラス構造の作製、②フレキシブルなポーラス構造上への細胞播種および培養方法の検討、③細胞組織の回収と回収した細胞組織の機能の評価を計画している。本年度は、主に研究項目①および②の構造の量産方法と細胞の播種・培養方法についての検討を行った。 まず、研究項目①については作製工程を前年度に特定したので、細胞実験に用いるための構造を効率的に作製するため、微細加工に用いるマスクを再設計し、前年度と比較して約10倍近い効率で構造を作製できるよう改善した。 次に、研究項目②については、蛍光タンパク質を有した接着性細胞であるヒト脳腫瘍細胞であるU-87細胞を用いて実験を行った。U-87細胞の細胞懸濁液を滴下するのみでは、フレキシブルなポーラス構造上の適切な箇所に細胞が積層されないことが分かった。そこで、細胞培養に用いるシャーレ内に構造を配置し、培地を加えたのち、構造をシャーレ底面から1mm程度離すことで培地の流れる空間を確保し、ポーラス構造を貫通する培地の流れを生成することでポーラス材上に細胞を積層させることができた。ポーラス構造を持たない形状と比較した結果、ポーラスがなく流れが生じない形状では細胞の積層が観察されなかった。さらに、ポーラス構造上では2日間の培養後もU-87細胞の蛍光タンパク質から生じる蛍光強度が低下しなかったので、フレキシブルなポーラス構造上で細胞培養できることを示せた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、研究項目①フレキシブルなポーラス構造の作製、②フレキシブルなポーラス構造上への細胞播種および培養方法の検討についてはおおむね達成できたので、来年度は研究項目③細胞組織の回収と回収した細胞組織の機能の評価を計画している。提案手法では、細胞組織に対して限りなく低負荷での回収を目指すので、タンパク質分解酵素など、細胞に負荷のかかる薬剤は使用せず、物理的な作用のみで細胞組織の回収を試みる。具体的には、フレキシブルなポーラス構造の細胞を播種した側と反対側から液圧を加え、ポーラス構造を伸縮させ細胞組織と構造の接着強度を低下させる。さらに、ポーラス構造を通して細胞組織に液圧を加えることで、薬剤を用いることなく細胞組織の回収を行う。 回収した細胞組織は徐々にその形状を崩していくと考えられるので、回収後の細胞組織の形状を時系列で取得する。また、フレキシブルなポーラス構造上での培養と回収操作中の細胞への影響を評価するため、Viability assayを行い、生存している細胞の割合を明らかにする。これらの実験については、ポーラスを有さない構造をリファレンスとして用い、ポーラス構造の細胞への影響と回収効率への影響を明らかにする。また、細胞種ごとに適切な播種、培養、回収条件は異なると考えられるので、複数の細胞種を用いて実験を行う。さらに、複数種の細胞から構成される細胞組織の作製にも取り組み、各条件に最も適した播種、培養、回収方法とその条件を明らかにする。
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