研究課題
サンゴやイソギンチャクが属する花虫綱の生物は、動物の主要な光受容タンパク質であるオプシンを複数有しており、その中には花虫綱の動物に特異的なオプシングループも含まれる。こうした多様なオプシンは、幼生の光応答行動や光による産卵制御といった花虫綱の生物に見られる光による様々な生理機能の調整に関与すると考えられている。しかし、花虫綱のオプシン類の光受容タンパク質としての特性はほとんどわかっていない。本研究は、造礁性サンゴの一種であるウスエダミドリイシを対象に、花虫綱オプシンの分子特性を明らかにするとともに、オプシンがウスエダミドリイシ幼生で見られる光応答行動にどのように関わるかを明らかにすることを目的としている。当初は、昨年度までに同定・クローニングし、吸収波長を決定したウスエダミドリイシオプシンについて、CRISPR/Cas9を用いた幼生個体での遺伝子機能解析実験を行なう予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて渡航が制限され、フィールドでのサンゴの採卵およびサンゴ受精卵へのガイドRNAのマイクロインジェクションが実施できず、上記の目標が達成できなかった。そこで本年度は、培養細胞発現系を用いたウスエダミドリイシオプシンの分子特性解析をさらに発展させた。まずは、可視光受容のメカニズムが明らかになっていない花虫綱特異的なオプシンについて、部位特異的変異体の作成と、その分光感度測定を様々な条件で実施し、当該オプシンの可視光受容に重要なアミノ酸残基を特定した。また、細胞内の主要な二次メッセンジャーであるcAMPとCa2+の光依存的な変化を測定することでウスエダミドリイシオプシンのシグナル伝達について重要な知見を得ることができた。さらに、ウスエダミドリイシの幼生を用いたRNA-seq解析によって、幼生で優占的に発現するオプシン類を絞り込むことにも成功した。
3: やや遅れている
ウスエダミドリイシオプシンの分子特性(吸収波長制御やシグナル伝達)について、詳細な解析を進めることができ、期待以上の結果が得られた一方で、新型コロナウイルス感染拡大による渡航の制限から主にサンゴ生体を用いた実験・解析に遅れが生じているため。
フィールドでの採集や生体サンプルを用いた実験が制限された影響で、少なからず当初予定していた計画を変更せざるを得ない状況となった。まずは、培養細胞発現系を用いて発展させてきたウスエダミドリイシオプシンの分子特性に関する解析を進め、①花虫綱特異的オプシンにおける可視光吸収メカニズム、および②ウスエダミドリイシオプシンの網羅的な吸収波長解析とセカンドメッセンジャーアッセイについては、解析を進めた上で結果をまとめ、論文として発表する。また、感染状況を鑑みて沖縄への渡航が可能であれば、ウスエダミドリイシの産卵期である6月にはフィールドでの採卵・人工授精・プラヌラ幼生の採集を行ない、これらを主に組織学的なオプシン発現局在の実験と、行動実験に用いる。オプシンの発現局在の実験では、昨年度行なったRNA-seq解析で幼生においてmRNA発現が多いことが示され、かつ近縁のサンゴの幼生期にそのホモログが神経細胞において特に発現していることが知られる一種のオプシンに着目し、in situ hybridizationおよび免疫組織化学を用いて詳細な発現部位・発現細胞の特定を行なう。このオプシンについては吸収波長および光応答的な二次メッセンジャーのアッセイに成功しているため、これらの情報をあわせることで、幼生の行動に対する当該オプシンの関与について推定、または明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Galaxea, Journal of Coral Reef Studies
巻: 24 ページ: 41~49
10.3755/galaxea.G2021_S10O