今年度の成果の一つは、完備Gorenstein局所環上のGorenstein整環とそのGorenstein射影加群に対して、Auslander-Ringel-太刀川型の結果を与えたことである。特に、完備Gorenstein整環が有限Cohen-Macaulay表現型を持つことと、Gorenstein射影加群の安定圏の全ての直既約純移入的対象がコンパクトであることが同値になることを示した。証明にはコンパクト生成三角圏のZieglerスペクトラムの理論を用いており、鍵となる結果の一つは準備中の論文の付録を執筆しているRosanna Laking氏によるものである。 上の内容と関連して取り組んだ別の研究でも幾つかの成果が得られた。まず、CM(=Cohen-Macaulay)環上の極大CM加群および正準加群の無限生成版と考えられる「large CM加群」と「large正準加群」という概念を導入することで、AuslanderとBuchweitzによる極大CM近似に関する古典的結果を無限生成化することに成功した。その系として、先行するSimonやHolmによる可換CM局所環上のbig CM近似に関する結果を包括する一般化を整環上で与えた。また、正準加群を持つ有限次元CM環上の整環に対して、極大CM加群とlarge CM加群の間にGovolov-Lazard型の定理が成り立つことを示した。さらに、整環が非特異であることやGorensteinであることの特徴づけを、余ねじれ対の観点から与えることに成功した。 以上に加えて、前年度から続く3つの研究に取り組んだ。一つは神田 遼氏との共同研究で、ネーター多元環上の平坦余ねじれ加群の構造定理を与えるものである。この研究の論文はarXivで公開し、学術雑誌へと投稿済みである。二つ目はMichal Hrbek氏とJan Stovicek氏との共同研究であり、可換ネーター環上の非有界導来圏における準傾複体の具体的な構成を与えるものである。この研究の論文は完成間近である。三つ目はネータースキーム上のアデリック複体の明快な構成をアファインの場合に与えるものであり、この研究の論文は執筆中である。
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