研究実績の概要 |
カイラリティ誘起スピン選択性 (chirality-induced spin selectivity, CISS) と呼ばれるカイラル物質が示す巨大スピン偏極効果の機構解明を目的とした理論的研究を行っている。CISSを引き起こす要素としてカイラル分子に含まれる核振動自由度に着目し、この分子系におけるスピン・フィルター効果の定式化を行った。核振動自由度は軌道角運動量固有状態間の巨大なエネルギー差を作り出し、それがスピン・フィルター効果を大幅に増幅しうることを明らかにした。このカイラル分子系におけるスピン・フィルター効果は螺旋結晶におけるフォノン自由度によって増幅されるスピン分裂幅として一般化可能なことを示した。その際フォノン自由度との相互作用効果を取り入れた電子有効モデルを導出し、それがカイラル結晶特有の掌性を変えることで符号が反転するスピン分裂項として表現されることを発見した。また、カイラル結晶におけるフォノンと電子スピン間の角運動量交換過程を明らかにするため、従来曖昧なまま残されていたフォノンの角運動量および擬角運動量を明確に区別する理論を構築した。
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