本研究では、四次元細胞足場を合成高分子により設計し、間充織凝集を模倣することによって内包した細胞群からなる膵原基の形成を目的としている。この目的を達成するに当たって、光により膨潤収縮するゲル足場を昨年度開発した。ゲル上で培養した細胞は高い生存率を維持していた。本年度は、足場からの力学刺激が細胞内シグナル伝達にどのように変換されるか理解することを目的とし、Institute for Bioengineering of Cataloniaを拠点として研究を実施した。
光応答性ゲルの膨潤収縮が細胞-足場界面にて及ぼす影響を検討するため、接着班を(ゲルの膨潤収縮によって)力学刺激できる系を構築し、細胞観察を試みた。まず光異性化するアゾベンゼンモノマーおよびジメチルアクリルアミドから成るゲルを調製し、局所的に紫外光を照射した。最小2 μmの局所UV照射に対して膨潤が確認された一方で、ゲルの光照射領域と非照射領域は連続しているため、膨潤が非照射領域まで及んだ。次に、ゲルの局所膨潤収縮に対する細胞応答を観察するため、焦点接着班の形成に関与するパキシリンを蛍光標識したヒト線維芽細胞をゲルに播種した。細胞の焦点接着領域に紫外光及び可視光を10秒周期で交互に照射しながらパキシリンを経時観察したが、照射領域における接着班の変化は確認されなかった。細胞応答を誘起するに当たって、UV/可視光照射量とゲル膨潤度の相関や膨潤収縮キネティクスの条件検討が必要と考える。
上記の通り本年度は細胞観察とゲル足場の光駆動を同時に実施できる系を構築したが、ゲル調製、パキシリン蛍光標識、ゲル膨潤を誘起する光照射などの検討に時間を費やしたため、予定していた膨潤収縮に対するメカノトランスダクションを詳細に研究するには至らなかった。
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