骨髄異形成症候群(MDS)等の造血器腫瘍において細胞外小胞(EVs)が骨髄微小環境の再構築に寄与し、腫瘍に好ましい環境の形成や正常造血を抑制することが知られている。そこで本研究は腫瘍由来EVsの生体内における挙動に着目し、それが運搬する機能分子の効果を解析することで治療標的を探索すると同時に、EVsの挙動を規定する因子を探索することでそれを利用した薬剤送達系の開発を目指した。 EVsマーカーとして知られるCD63と蛍光色素の融合蛋白等を用いて腫瘍由来EVsの標的を探索したところ、間葉系幹細胞(MSC)や内皮細胞といった主要な骨髄ニッチへ取り込まれやすいことが確認された。また複数のMDSモデルマウスと患者検体を用いた解析から、腫瘍由来EVsが内包するmiRNA群を介してMSCの骨芽細胞系列への分化を障害し、正常造血を抑制することを明らかにした。興味深いことに、これらのmiRNA群はMSCの生存や分化に関するシグナル経路をモデル・生物種間で共通して標的としていた。そこでMSC機能異常を司るシグナル経路の制御因子を探索するため、単一細胞マルチオーム解析を実施し、主要なニッチ因子であるCxcl12のエンハンサーと考えられる領域の活性低下を認めた。現在当該領域の機能解析を進めている。 次にEVsの標的細胞への取込機構を調べるためにEVsとMSCの網羅的蛋白発現解析を行った。腫瘍由来EVsは正常対照群と比較して蛋白量に変化は見られないが、構成要素に大きな変化が見られた。インテグリン等の接着因子においても顕著な発現変動がみられ、また標的細胞であるMSCで対応する細胞外基質の発現を確認した。これらの接着因子の機能解析を行う上で問題であったEVs取込細胞の蛍光強度減退を解決するため、Creリコンビナーゼによるレポーターシステムの導入・条件検討を行い、現在in vivoにおける解析を進めている。
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