研究課題/領域番号 |
20J01913
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
安川 直樹 名古屋工業大学, 工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 炭素-炭素結合形成 / 四級不斉炭素 / ラジカル反応 |
研究実績の概要 |
私は所属研究室で独自開発した触媒系を駆使して、炭素-炭素(C-C)結合形成反応における立体選択性の制御を目指し研究を遂行している。その一環として令和3年度は、2種類の反応開発に取り組んだ。
1. ラジカル反応はC-C結合を構築できる強力なツールである一方、高活性ラジカル種が立体的影響を受けにくいため、三次元構造の制御は未だ挑戦的な研究テーマである。私は、4-アルキル-1,4-ジヒドロピリジン誘導体をラジカル前駆体として用いた環状スルホニルケチミン類のアルキル付加反応が、市販の銅触媒の使用のみで効率良く進行することを見出した。現状、目的付加体のエナンチオマー過剰率(ee)はほとんど発現していないが、反応機構解明とともに反応条件の最適化、基質適用範囲を確認することで、ケチミン類の新規アルキル化法としての確立を目指す。更に、新規触媒のデザイン及び合成を継続することで、不斉反応への展開を目指す。 2. 環状アミノ酸由来のケチミン及びエナミン類への不斉求核付加反応の開発研究に取り組んだ。光学活性アミンは、医薬品を始めとする生物活性物質や天然物に遍在する基本構造である。特に、環状アミン類は創薬化学の観点からprivileged structure(特権構造)と認知されており、それらの系統的で一般性に富んだ合成法・官能基化法の開発は多岐に渡る分野で望まれている。私は、環状アミノ酸類(プロリンなど)の酸化反応により容易に調製される環状ケチミン類への不斉aza-Henry反応(C-C結合形成反応)が、所属研究室で独自開発された8-キノリンスルホニル基を導入したシンコナアルカロイド-ジエチル亜鉛により効率良く触媒されることを見出した。この研究成果は、国際学術誌に発表した(Chem. Commun., 2022, 58, 1318-1321.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ラジカル反応における四級不斉炭素中心の構築を目指したハイブリッド型触媒の開発」を目指した研究テーマの中で、「ケチミン類への不斉ラジカル反応」の開発研究に精力的に取り組んできた。この研究プロジェクトは世界的にチャレンジングな研究分野に位置づけられており、少しずつではあるものの着実に研究成果・ノウハウを蓄えている。またその研究過程で、銅触媒による興味深い現象も見つかり、並行してラセミ反応(非不斉反応)として纏める予定である。 また上記メインテーマと別に「環状アミノ酸由来のケチミン・エナミン類への不斉反応」を目指し研究に取り組み、内一つを筆頭・責任著者として学術論文(Chem. Commun. 2022, 58, 1318-1321.)に発表した。このプロジェクトを更に発展させた研究の成果も既に挙がっており、令和4年度中の達成を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も昨年度に引き続き、「四級並びに四置換不斉炭素構築を志向した立体選択的炭素-炭素(C-C)結合形成法の開発」に取り組む予定である。 [1] ケチミン類への不斉ラジカル付加反応:市販の銅(Cu)存在下、4-アルキル-1,4-ジヒドロピリジン誘導体(アルキルラジカル前駆体)を使用した環状ケチミン類へのラジカル付加反応を効率良く触媒することを明らかとした。しかしこの反応では、目的付加体のエナンチオマー過剰率(ee)がほとんど発現しなかった。本年度は、下記の研究計画で遂行する。 [計画1] ラセミ反応としての確立を目指す。今後、基質一般性の拡充を図るとともに、対照実験や計算化学を駆使して、反応メカニズムを解明する。 [計画2] 不斉触媒をスクリーニングして、得られた知見・結果(電子・立体的環境、共役系の長さ等)を基に、触媒をデザイン・改良することで触媒ライブラリーを拡充する。そして、目的生成物の不斉が発現する反応系を探索する。また、触媒と相互作用する配向基を反応剤に導入することで不斉発現を目指す。 [2] 環状アミノ酸由来のケチミン・エナミンに対する不斉求核付加反応:環状アミノ酸類より調製される環状ケチミンを、所属研究室で独自開発されたヘテロアレーンスルホニル基を導入したシンコナアルカロイド-ジエチル亜鉛共触媒存在下、ニトロメタン類と反応することで、高収率及び高立体選択的に四置換不斉炭素中心を有するキラル環状アミノ酸類を得ることに成功した。本年度、まずこの触媒系を駆使して、様々な求核種を検討することで、この研究を更に展開する。またこのケチミンの異性化により得られるエナミン類への不斉付加反応の可能性を既に見出しており、本年度は、最適条件を確立するとともに、基質一般性の拡充、反応機構解明・生成物の合成的変換反応を検討し、学会発表及び論文投稿する予定である。
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