研究課題/領域番号 |
20J01938
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
高尾 勇輝 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD) (70896654)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ソーラーセイル / 制御 / 実験 / 小惑星 / ミッション解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、アクティブ変形可能なソーラーセイルによる新しい宇宙航行システムを実現するものである。互いに連成する軌道・姿勢・構造ダイナミクスの統合制御を目指し、昨年度までに、A) 任意の空間分布・時間履歴を持つ外部入力を受けるソーラーセイルの変形応答の解析解の導出、B2) 大規模問題を扱う低推力軌道の全自動大域的最適化ツールの開発、という2点の成果を獲得した。これらに基づき、本年度は以下に示す研究実績を得た。 B1) 成果A)に基づき、軌道・姿勢・構造の連成ダイナミクスを統合的に扱うための新しい制御理論を構築した。太陽光圧の作用、ならびに軌道・姿勢の連成効果の下での構造変形を解析的に記述し、その上で所望の変形状態を作り出すための制御則を導き出した。さらに、制御装置のハードウェアを試作し、上述した外部作用を重力で代用して、開発した制御システムの有効性を地上試験により検証した。高フレームレートのデプスセンサを用いてリアルタイム3D形状計測を行い、その結果が理論と高い精度で整合することを確認した。 C) 以上の成果B1)とB2)により、連成システムの統合制御による宇宙航行の枠組みが完成した。この新しい宇宙航行理論を実ミッションに適用し、宇宙探査における有効性を示すための研究を開始した。所属研究機関であるJAXA宇宙科学研究所では、はやぶさ2のサンプルリターン成功という成果を継承・発展させるため、次世代サンプルリターンミッションの検討が開始された。本ミッションにおいて、小惑星へ到着した母船から小型のソーラーセイル子機を切り離し、ソーラーセイルがアクティブ変形しながら小惑星を周回するというコンセプトの提案を行った。ソーラーセイル子機が低高度で小惑星を周回することで、母船の墜落リスクを回避しつつ高解像度データを収集し、さらに母船の着陸補佐まで行う。次年度は、本コンセプトの定量的な解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述した研究実績のうち、B1)については1年目(昨年度)実施する計画であったが、新型コロナウイルスの影響で実験遂行に支障が生じ、当初の計画を変更する形で先行してB2)を実施した。独立して実施可能な研究項目を判断し、後ろ倒しとした研究B1)の結果が得られ次第即座に軌道計画B2)へ反映できる枠組みを整えておくことで、スムースな研究遂行を狙ったものである。結果として、本年度は計画内容の通りの試作・実験を行うことができ、また軌道設計ツールを研究の初期段階で開発していたおかげで、ツールのさらなる高機能化が実現できた。 研究業績C)については、当初の計画では3年目(次年度)に実施予定であったが、研究成果の適用先となる具体的なミッションの基盤を予め構築しておくことで、次年度にミッション解析を開始するための準備を整えることができた。また、当初はケーススタディによって研究成果の有効性検証を予定していたが、次世代サンプルリターンという現在進行中の実プロジェクトへ適用することで、より実践的な要求に基づくミッション解析を可能としたほか、軌道上実証に繋げる機会を見出すことができた。 以上を踏まえ、新型コロナウイルスという不測の事態にも適切に対処しつつ計画通りに研究を推敲し、さらに次年度に実施予定の研究項目の基盤作りも先行して実施できたことから、当初の計画以上に進展していることを報告する。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、前述した可変構造ソーラーセイルによる小惑星周回ミッションの定量的な解析を行う。次世代サンプルリターンの礎となる小惑星探査機はやぶさ2では、世界初となる、人工物体の小惑星周回軌道投入に成功した。この軌道をリファレンスとして、光子加速による動力航行を許容した場合の軌道解析を行い、小惑星表面の全域探査(グローバルマッピング)を実施するための最適制御則を導出する。さらに、ソーラーセイル子機の優れた太陽光反射性=遠方からの視認性、及び母船との相互通信を活用した、光学・電波複合航法の可能性についても検討する。これによって、ソーラーセイル子機は母船にとっての人工アクティブマーカーとして機能し、母船の小惑星着陸・サンプル採取における強力なサポートが可能となる見込みである。
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