本研究は、太陽光の輻射圧を受けて推進力を生むソーラーセイルに変形機能を持たせ、連成する軌道・姿勢・構造ダイナミクスの統合制御による新しい宇宙航行システムを実現するものである。昨年度までに、A) 連成力学系の解明と統合制御モデルの構築、B) 大域的軌道最適化に基づく宇宙航行論の確立、という2つの主要研究成果を獲得した。研究計画に従い、本年度はC) 実ミッションへの応用研究、を重点的に実施した。 所属研究機関であるJAXA宇宙科学研究所では、小惑星探査機はやぶさ2の後継にあたる次世代小天体サンプルリターンミッションの検討が行われている。本ミッションでは、目標天体までのペイロード輸送を担う往還機(親機)と、サンプル採取などの探査を行う着陸機(子機)の複数機構成をコンセプトとしている。本研究では、小天体における科学をさらに充実させるためのオプションとして、変形可能なソーラーセイルを装備した孫機の搭載を提案している。低高度の小天体周回軌道に投入することで、高解像度のグローバルマッピングや地下レーダー探査といった活用が期待される。 はじめに、ソーラーセイルのアクティブ変形による周回軌道制御の検討を行った。周回軌道として有名なターミネータ軌道を対象に、軌道投入誤差がある場合はいずれ小天体へ落下してしまうが、本研究が提案する可変構造ソーラーセイルを用いて長期的な軌道維持が可能であることを示した。続いて、複数のソーラーセイル孫機を展開することによる小天体コンステレーションの検討も行った。ソーラーセイルなどの膜構造と相性の良い平面型フェーズドアレイアンテナを用いて、電波航法による軌道決定も組み込んだ実践的なコンステレーション形成のための解析を行った。 以上の通り、申請書に記載した研究計画に従い可変構造ソーラーセイルによる宇宙航行システムを確立し、その幅広い応用可能性についても示すことができた。
|