研究課題/領域番号 |
20J01951
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
佐谷 茜 気象庁気象研究所, 全球大気海洋研究部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | データ同化 / 降水 / 沈着過程 / 放射性物質 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
本研究は大気物質循環における湿性沈着過程の実態を解明することで、大気物質による環境影響評価や大気・陸面を含めた物質輸送における水循環の役割を明らかにし、ひいては健康被害の抑制に貢献することを目指し、それらに不可欠である数値モデルにおける再現精度の向上と、湿性沈着過程の詳細な理解を目的とする。LETKFを組み込むことで大気濃度や気象場(風、雲微物理変数等)も同時に改善し、降水・セシウムの湿性沈着量分布の再現精度を向上させる。令和2年度は領域大気モデルIsoRSMに局所アンサンブル変換カルマンフィルタ法(LETKF)を実装するためのプログラム開発を実施した。本年度は主にその前段階として全球モデルIsoGSMへのLETKFへの実装に取り組んだ。 受け入れ研究者との共同研究の一環で、気象庁気象化学モデルNHM-Chemにより福島原発事故由来の放射性粒子の微物理特性を正確に表現することで、特に福島県浜通りにおける沈着過程のモデル再現精度の向上に成功した。一方でまだ課題が残っていることが明らかになり、それについては引き続き研究が必要であることが判明した。これをJ. Geophys. Res.誌に共同で発表し、出版された。 物質循環を扱う領域大気モデルのデータ同化技術に関する知見と経験を積むため、気象庁のNHM-Chemに2D-Var方式でデータ同化システムを実装し領域スケールで黄砂を観測するための研究開発にも関わった。また、現行の全球モデルで稼働しているデータ同化システムについても扱った。 また、本年度は大気環境学会放射性物質動態分科会のワークショップ及びシンポジウムに参加した。本分科会では福島原発事故による放射性物質の大気環境への影響を扱っており、より本研究課題に近い分野を扱う研究者と意見交換を行うことが出来た。次年度以降も同分科会への参加を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究課題である湿性沈着過程のモデル再現精度の向上のため、領域大気モデルIsoRSMへのLETKFの実装に着手した。その前段階として、1) 受け入れ先の気象庁気象研究所が開発している全球エアロゾル輸送モデルMASINGERの黄砂予報システムについて文献調査、2) 気象庁気象化学モデルNHM-Chemを用いた領域スケールでの黄砂予測におけるデータ同化システムの実装に同研究所の他の研究員・学生と共に取り組み、3)IsoRSMの全球版であるIsoGSMのLETKFの実装を計画した。途中半年間の傷病を理由とした採用中断期間を挟み復帰後の1月からはIsoRSMへのLETKF実装に向けた準備に集中して取り組んだ。いずれも物質輸送モデルにおけるデータ同化システムの挙動について学びシステムの実装について経験を積むためのものであり、実装に必要な知識を得ることが出来た。なお、3) については次年度も継続して行い領域モデルへの実装につなげる予定である。 また、本年度は受け入れ研究者が所属する分科会が主催するオンラインのワークショップ及び福島県郡山市で開催されたシンポジウムに参加した。本研究課題でも使用を予定している沈着量の観測結果の最新の解析結果やシンポジウムの参加者によって独自に観測されてきた降下量や大気中濃度の原発事故後の推移についてなどの発表があり、今後の本研究課題の開発予定のシステムの検証に必要な知見が得られた。また、参加者の多くは本研究課題に非常に近い内容を扱っており、次年度以降も活発に情報交換ができる可能性がある場を持つことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きIsoRSMへのLETKFの実装を行う。これと並行し、降水データ同化に用いる高解像度の観測雨量(解析雨量, C-band, APHRODITE)の収集を本格的に行う。また、C-bandレーダー雨量は地球環境統融合システム(DIAS)のデータベースを利用予定である。 実装した降水データ同化システムを用い、モデルケースである事故直後のセシウム137の沈着量の再現実験の検証を行う。また、これまでの研究成果から、日毎の観測沈着量だけでは精度を過小評価してしまう恐れがあるため、大気濃度の検証も同時並行で行う。次に他のモデルとの相互比較を始める。最初に、気象研の化学輸送モデルNHM-Chemを使って同様の条件下で検証を行う。このとき、湿性沈着が見られた期間・地域を対象に、降水データ同化システム、詳細な素過程の有無がどのように影響するかを評価する。この作業にはNHM-Chemの操作を申請者自身で行うがこれはモデルの理解も兼ねており、今後のエアロゾル全般の研究に着手する際の足掛かりとする狙いもある。これらの検証に基づき、主にセシウムの大気中の除去過程に着目したスキーム改良も行っていく。
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