研究課題/領域番号 |
20J10024
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
中屋敷 弘晟 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | ERD / EEG / BCI |
研究実績の概要 |
本研究では,BCIで広く用いられる脳波特徴量であるERD(事象関連脱同期)の生成機序の解明を目的とし,先行研究で見られた等尺性収縮の持続中におけるERDの発現傾向の違いが,筋力発揮量のフィ ードバックによる運動計画の更新によるものか視覚刺激によるものかを検証するため,視覚フィードバックの提示方法を変えた際のERDへの影響を調査している. 令和元年度にて視覚フィードバックの提示方法を変えた際のERDへの影響を調査するための実験を行ったため,令和2年度にてこの実験データの解析を行った.その際,実験で得られた脳波データに多数の体動に伴うノイズが見られたこと,またデータの個人差が想定より大きいことから計画を修正し,被験者数を増やすための追加実験及び新たなノイズ除去手法の適応などの対応を行った.適応したノイズ除去手法は独立成分分析を用いたアーチファクト除去であり,これにより体動による筋電図や眼電図の成分を被験者ごとに算出・除去を行った.その結果として,運動を行っている右手の感覚運動野のERDにおいて,運動は行わないが視覚刺激だけを与える条件でのERDが,運動を行う他の実験条件のERDよりも有意に弱い傾向が見られるようになった.つまり,視覚刺激による影響を除外することができたと思われる解析結果が得られた. また,ERD生成条件調査のため,新手法を以前に行った予備実験,視覚フィードバックの有無および3段階の把持力を組み合わせた6条件で把持運動を行った際のデータにも適応したところ,視覚フィードバックがない条件でmu波帯のERDが減少する傾向がより有意にみられた.一方で把持力によるERDの有意な違いは見られかったことから,筋力発揮量は一次運動野のERDに影響を与えないことが明らかとなった. この研究成果は国内学会にて発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の令和2年度の予定として,元年度に実施した実験の解析を行い,その結果を学会発表及び論文執筆,そして3年度に向け,ERD発現メカニズムに基づいたBCI訓練方法の提案か,生成メカニズムの証明をする新たな実験を行うかの方針決定を行うこととしていた. 実験の解析を行ったところ,データの個人差が想定より大きく被験者数の追加が必要となり,追実験を行った.また,脳波データに多数の体動に伴うノイズが見られ,これを解決するために成分分析によるノイズ除去手法の調査および適応を行った.実験データの増加に加え,使用したノイズ除去手法では算出された各成分が脳由来のものかの判断が難しく,分析や調査に時間を要したため,進捗に遅れが生じた. 再解析の結果,眼電図や体動によるノイズを大幅に除去することに成功し,右手感覚運動野に生じていた視覚刺激による影響を軽減することができたが,フィードバックの有無により実運動は異なる動きであるにも関わらずERDの差異が見られなかった.同様の手法を予備実験に適応したところ,筋力発揮量がERDに影響しないことを明らかにすることができたものの,現段階においてERDの発現メカニズムの特定ができていない.
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今後の研究の推進方策 |
フィードバックの有無により実運動は異なる動きであるにも関わらずERDの差異が見られず,現段階においてERDの発現メカニズムの特定ができていない. そのため令和3年度では,直接関連する運動野だけでなく他の脳部位との関連や異なる周波数領域といった解析対象を拡大させ,フィードバックの有無を処理しうる脳機能を調査する.その後,学会発表及び論文執筆を行う. また,この実験データでは差異が見つからない場合,実験手法の見直しおよび仮説を再検討し,再実験を行う.行った実験では被験者の発揮する発揮量に合わせて動く視覚刺激と無関係な動きをする視覚刺激を提示することで,フィードバックの有無のみが異なる条件を設定したが,後者において被験者の動きに近いサンプルの動きを用いたため,無意識下において自身の運動だと認識してしまった可能性がある.そのため,そのような認識ミスが起きない条件を再設定する.
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