研究課題
本研究は、①熱帯山地林の展葉・開花・結実フェノロジーを記述すること、②それらに影響する気象要因(気温・降水量・日長)を特定することを目的としている。本年度は、COVID-19感染拡大による海外への渡航制限を受けて、ベトナムのBidoup-Nui Ba国立公園におけるフェノロジー調査が行えなかったため、これまでの調査記録を用いた統計解析を行った。その結果、Bidoup-Nui Ba国立公園の調査区全体の観察対象91種全てが雨季始め(4月)に新芽を出し、展葉フェノロジーは日長・気温・降水量の影響を有意に受けることが明らかになった。これに対し、観察期間中に開花した種は70種にとどまり、開花フェノロジーは日長・降水量の影響を有意に受けるものの、気温の影響は小さいことが明らかになった。同様に、観察期間中に結実した種は57種にとどまり、結実フェノロジーに対する気象要因の影響は小さいことが明らかになった。これらの結果より、Bidoup-Nui Ba国立公園の熱帯山地林には、1年周期で咲く種と数年に一度咲く種が共存することが示され、熱帯山地林のフェノロジーは、熱帯雨林の季節性に乏しいフェノロジーと、熱帯季節林・温帯林の明瞭な1年周期のフェノロジーの中間的状態と考えられた。そして、被子植物が東南アジアの熱帯山地林に起源するという先行研究の仮説に基づき、群集のフェノロジーが、各地の気象と相関して多様化する過程を示す新たな仮説を構築した。この仮説では、熱帯山地林より、熱帯雨林ではフェノロジーの季節性が消失すること、熱帯季節林では乾季に適応したフェノロジーが多くなることなどを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していたベトナムのBidoup-Nui Ba国立公園におけるフェノロジー調査やRNAサンプルの採集は、COVID-19感染拡大による海外への渡航制限を受けて遂行できなかった。しかし、これまでの観察記録を用いて、①熱帯山地林の展葉・開花・結実フェノロジーを大まかに記述すること、②それらに影響する気象要因(気温・降水量・日長)を明らかにすることができた。
今後は、5つの調査区間でどのように植生が異なり、それに伴ってどのようにフェノロジーが異なるのかを明らかにする。
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Acta Phytotaxonomica et Geobotanica
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