研究計画において、令和2年度は(i)現象モデルとしての確率微分方程式の解である拡散過程が離散時間上で加法的ノイズの影響下で観測される時のノイズの分散パラメータ、確率微分方程式の拡散係数のパラメータ、及びドリフト係数のパラメータについての局所漸近正規性、(ii)拡散過程が離散時間上で時間積分によって平滑化され観測された場合の推定量・検定統計量の考案並びにその漸近的挙動、の2点について調べるものとした。 (i)の局所漸近正規性について、最もシンプルなモデルとして、1次元定常Ornstein-Uhlenbeck過程に平均0かつ正の分散を持つ正規分布に独立同分布で従うノイズが加法的かつ拡散過程とは独立に離散時間上での観測に加わるという設定の下で証明を試みたが、結果として完成には至らなかった。この単純な設定にあっても局所漸近正規性の証明においても特に分散共分散行列について複雑な計算を要し、証明は完了しなかった。最もシンプルなモデルを考えその収束レートや収束先の分布について見通しを良くするというアイデアが機能しなかったため一般の状況についての証明もまた困難が予想される。 (ii)の時間積分観測下での推定量・検定統計量の考案と漸近的挙動については以下の成果が得られた。まず離散時間上での時間積分された観測の下で、潜在過程である拡散過程を解に持つ確率微分方程式の拡散係数並びにドリフト係数のパラメータに対する一致推定量を構成した。また推定量に加えて、観測が実際に時間積分されているかどうかを検定するための統計量を構成し、時間積分されていないとする帰無仮説の下での漸近正規性、及び正の時間幅で積分されているとする対立仮説の下での発散を証明した。この統計量を用いることで一致性のある漸近的検定が可能となっており、実際にある脳波データについては非常に低い有意水準であっても対立仮説を採択する結果を得た。
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