2021年度は,PM2.5曝露による脳梗塞予後の悪化について,①PAHs-AhR経路を介した神経炎症,および②脳虚血後の炎症性合併症である脳浮腫の寄与を示すことを目指し,研究を行なった。 ①これまでにPM2.5曝露による脳梗塞予後悪化には,PM2.5に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)による神経炎症惹起が重要である可能性を示した。詳細なメカニズムを解明すべく,PAHsの受容体である芳香族炭化水素受容体(AhR)に着目した。8-12週齢の雄性C57BL/6JJc1マウス(AhR-WT)およびAhR遺伝子ノックアウトマウス(AhR-KO)を用いて,PM2.5(100 μg/mosue/day)を7日間経鼻曝露し,脳虚血を誘導した。虚血7日後までRortarod testによりマウスの運動能力を測定した。その結果,AhR-WTマウスではPM2.5曝露により虚血1日後の運動能が悪化したが,AhR-KOマウスでは悪化が認められなかった。これにより,PM2.5による虚血後の運動機能悪化にPAHs-AhR経路が寄与することが示された。 ②神経炎症惹起による運動能力悪化について,脳浮腫に着目し解析した。脳浮腫は,血液脳関門のバリア機能低下により生じる。過剰量の水分が脳実質へ蓄積するために脳体積が膨大化し,頭蓋内圧が亢進することで脳機能が低下する。よって,PM2.5による神経炎症と虚血後の神経炎症の相加作用により脳浮腫が増悪することで運動機能が低下する,との仮説を立てた。8-12週齢の雄性ICRマウスにPM2.5を7日間経鼻曝露し,脳虚血を誘導した。核磁気共鳴画像(MRI)の撮像およびTTC染色を同一マウス個体において実施し,各画像を重ね合わせることにより脳浮腫領域を評価した。その結果,Veh曝露マウスに比べてPM2.5曝露マウスでは,虚血1,3日後の脳浮腫領域が有意に増加した。
|