研究課題/領域番号 |
20J10148
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
北村 友佳 埼玉医科大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | Mga / 選択的スプライシング / PRC1.6 / 減数分裂 / 生殖細胞 |
研究実績の概要 |
我々は精原細胞において、PRCの一つの複合体であるPRC1.6の機能を抑制すると、精母細胞になるよう分化誘導されることを見出した(Suzuki et al., Nat Commun., 2016)。つまり、精子形成過程ではPRC1.6の制御により、減数分裂誘導が規定されていると考えられる。本研究では、精子形成期においてどのようにPRC1.6の機能が抑制され、減数分裂が誘導されているか理解するために、PRC1.6の制御機構の解明を目的とした。 公共のRNA-seqデータの再解析から、PRC1.6の構成因子の一つであり、かつDNA結合ドメインを持つMga遺伝子において、精母細胞特異的に終止コドンを含む新規エキソンが挿入されるスプライシングが起こり、DNA結合ドメインを欠損するバリアントが産生されることがわかった。RNA-seqデータの再解析及びin situ hybridization解析から、雄雌共に減数分裂期の細胞のみで変異型Mgaが産生されていることを確認した。 MGAバリアントは、MGAのパートナー因子であるMAXとは相互作用することができないものの、PCGF6といった他のPRC1.6の構成因子とは相互作用できることを確認した。ChIP-qPCR解析から、MGAバリアントを含むPRC1.6はターゲットとなるゲノム配列に結合できないことを確認した。さらに、ES細胞でMGAバリアントを過剰発現させたところ、PRC1.6のターゲットである減数分裂関連遺伝子の上昇が見られた。つまりMGA バリアントは、全長MGAを含む機能的なPRC1.6の形成に対してドミナントネガティブ体として作用し、遺伝子発現制御に寄与していることが想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生殖細胞においてPRC1.6の機能を抑制するような因子を同定するために、PRC1.6の構成因子をコードする遺伝子に着目して公共のRNA-seqデータの再解析を行なった。その結果、DNA接合ドメインを欠損するMgaスプライシングバリアントを発見した。培養細胞株を用いた実験により、このMgaバリアントは正常なPRC1.6の形成に対してドミナントネガティブ体として働くことで減数分裂関連遺伝子の発現上昇に寄与していることを示した。さらに、減数分裂期の生殖細胞では、本来の終止コドンよりも上流に存在するmRNAを分解する機構であるNonsense Mediated Decay(NMD)が抑制されていることが知られており、MgaバリアントはこのNMDが抑制される機構を利用して産生されていることがわかった。これらの結果をまとめて、Scientific Reports誌に掲載されたことから、おおむね順調に進展していると評価した。 さらに、MgaはNMDが抑制される機構以外にも積極的にMgaバリアントを産生する機構が存在する可能性が示唆された。そこで、Mgaバリアント産生機構解明のため、バリアント特異的に挿入されるエキソン配列に対してビオチン化RNAを作製し、LC-MS/MS解析を行なったところ、RNA結合タンパク質と報告されているが、スプライシング因子とは未だ報告されていない新規のファクターXを同定した。今後はこの新規ファクターXの機能解析を重点的に行う。
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今後の研究の推進方策 |
変異型Mgaの産生機構の解明のため、変異型Mgaに特異的に挿入されるエキソン配列に対してビオチン化RNAを作製し、LC-MS/MS解析を行なったところ、RNA結合タンパク質と報告されているが、スプライシング因子とは未だ報告されていない新規のファクターXを同定した。共免疫沈降実験の結果から、Xタンパク質はスプライシング因子であるU2AF1/2と相互作用することができることが示された。この結果から、Xタンパク質は精巣特異的な新規のスプライシングファクターである可能性が示唆され、現在より詳細な機能解析を行なう。 Xタンパク質のどの部位でU2AF1/2と相互作用しているのか確かめるために、Xタンパク質の部位欠損の発現プラスミドを作製し、共免疫沈降実験によりU2AF1/2との相互作用部位を見つける。 さらに、精母細胞の培養細胞株であるGC2spd細胞においてXタンパク質をコードする遺伝子における、U2AF1/2との相互作用を欠損させた細胞株を樹立する。つまり、Xタンパク質におけるスプライシングへの機能のみを欠損させることができると期待される。この細胞を樹立したのちは、RNA-seq解析を行い、野生型と比較することでスプライシングの変化を網羅的に調べる。
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