研究実績の概要 |
ポリコーム抑制複合体(PRC)は、ヒストン修飾を介してエピジェネティックな遺伝子発現制御を行う。所属研究室では、精原細胞において、PRCの一つの複合体であるPRC1.6の機能を抑制すると、精母細胞になるよう分化誘導されることを見出した(Suzuki et al., Nat Commun., 2016)。つまり、精子形成過程ではPRC1.6の制御により、減数分裂誘導が規定されていると考えられる。本研究では、精子形成過程においてどのようにPRC1.6の機能が抑制され、減数分裂が誘導されているか理解するために、PRC1.6の制御機構の解明を目的とした。 PRC1.6の構成因子の一つであり、かつDNA結合ドメインを持つMga遺伝子において、精母細胞特異的に終止コドンを含む新規エキソンが挿入されるスプライシングが起こり、DNA結合ドメインを欠損するバリアント(Mgaバリアント)が産生されることがわかった。さらにCRISPR-Cas9システムを用いて変異型Mgaを産生することができないマウスを作製した。2ヶ月齢の野生型マウスと交配させ、妊孕性を確認したが、雌雄共に正常な妊孕性を有していることを確認した。また月齢ごとに組織切片を作製し、精巣及び卵巣の形態を確認したが、正常な形態を示していた。これらの結果から、変異型MGAの機能は、何らかの理由でPRC1.6の機能が抑制できなかった時のセーフガードシステムや、数多くあるPRC1.6の機能抑制システムの一つとして働いていると結論づけた。
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