研究課題/領域番号 |
20J10152
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
行平 奈央 関西学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 紅色光合成細菌 / カロテノイド / 光捕集アンテナ色素タンパク質 / 光合成 / 超高速レーザー分光 |
研究実績の概要 |
光捕集に関わるカロテノイドの機能について知見を得るため,高等植物由来で分子内電荷移動(ICT)起状態を発現するβ-apo-8’-carotenal(βapo)を紅色光合成細菌の光捕集色素アンテナタンパク質(LH1)複合体へ再構成した。界面活性剤の濃度を適切に調節することでリング状のLH1複合体へ再構成することに成功した。定常蛍光・蛍光励起スペクトル測定よりβapoからバクテリオクロロフィルa (BChl a)への励起エネルギー伝達が確認できた。吸収スペクトルと蛍光励起スペクトルを比較し,励起エネルギー伝達(EET)効率を算出したところ,天然に存在する紅色光合成細菌由来のLH1複合体のEET効率(~45%)より高効率であることが示唆された。 さらに,βapoの緩和過程に関する情報を詳細に得ることのできる近赤外および可視領域でのフェムト秒時間分解吸収分光測定を行った。βapoを再構成したLH1は,近赤外領域にバクテリオクロロフィルのQyに由来する過渡吸収信号を示すことから,βapoからBChl aへの一重項励起エネルギー伝達が行われていることが確認できた。また,βapoのS1/ICT状態に由来する過渡吸収が見られることから,再構成LH1複合体中のβapoでもICT状態が発現することが明らかとなった。測定結果に対してシークエンシャルモデルを仮定してグローバル解析を行うと,再構成したβapoの解析結果は3成分(S2状態, hot S1/ICT状態, S1/ICT状態)に由来する過渡吸収成分が得られた。蛍光励起から算出したEET効率とグローバル解析の結果より,LH1に再構成したβapoは末端のカルボニル基と極性アミノ酸残基との電子求引的相互作用は存在するが,ポリエン全体の電子構造は無極性アミノ酸に囲まれているような環境にあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に予定していた,高等植物由来で分子内電荷移動(ICT)起状態を発現するβ-apo-8’-carotenalを紅色光合成細菌由来のリング状LH1複合体への再構成に成功したことが,おおむね順調に発展している大きな理由である。加えて,以前からの課題である時間分解吸収分光測定に耐えることのできる再構成LH1複合体の作製に関しても,界面活性剤の種類や濃度を変えることで再構成体の安定化成功した。 さらにβ-apo-8’-carotenalを再構成したLH1複合体においては,2年目に予定していた時間分解吸収分光測定も行うことができた。時間分解測定により得られる3次元データ(時間、波長、吸光度変化)に対してシークエンシャルモデルを仮定してグローバル解析を行い,再構成したβapoは3成分(S2状態, hot S1/ICT状態, S1/ICT状態)に由来する過渡吸収成分から成ることを明らかにできた。LH1に再構成したβ-apo-8’-carotenalは,末端のカルボニル基と極性アミノ酸残基との電子求引的相互作用は存在するが,ポリエン全体の電子構造は無極性アミノ酸に囲まれているような環境にあることが示唆された。 しかし,β-apo-8’-carotenal以外のカロテノイドでは,紅色光合成細菌由来のリング状LH1複合体へ再構成できておらず,カロテノイドの構造とエネルギー伝達の関係を調べるまで至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
官能基を持たない閉環末端カロテノイドであるβ-carotene,片側が閉環構造であり分子内電荷移動(ICT)励起状態を発現するparacentrone等のカロテノイドを紅色光合成細菌Rsp. rubrum G9+由来のLH1複合体へ導入することを試みる。導入に問題が生じた場合には,界面活性剤の種類や濃度の調節や試料作製におけるLH1複合体の温度条件を検討し,状況に応じて臨機応変に対応し改良を行う。再構成したLH1複合体は吸収,定常蛍光・蛍光励起スペクトル測定を行い,カロテノイドからベクテリオクロロフィルへの励起エネルギー伝達の有無を調べる。励起エネルギー伝達が確認できたら,時間分解吸収分光測定を行い,得られる3次元データ(時間,波長,吸光度変化)を用いてGlobal解析を行う。 同一の光捕集アンテナタンパク質複合体に様々なカロテノイドを導入し比較することで,カロテノイドの構造と励起エネルギー伝達効率の関係を解明する。さらに,高効率なエネルギー伝達を可能にするICT励起状態を発現するカロテノイドと比較し,高効率な人工光合成光捕集アンテナ系の創成を行うための分子デザインを提案する。
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