これまでの研究により,紅色光合成細菌由来の光捕集色素タンパク質複合体(LH1複合体)に分子内電荷移動励起(ICT)励起状態を発現可能であるフコキサンチンの導入を実現した。さらにカロテノイドのICT励起状態と励起エネルギー伝達効率の関係を調査するため,高等植物由来でICT励起状態を発現するβ-apo-8’-carotenalをLH1複合体へ再構成を行った。界面活性剤の濃度を適切に調節することでリング状のLH1複合体へ再構成することに成功し,定常蛍光・蛍光励起スペクトル測定よりβapoからバクテリオクロロフィルa (BChl a)への励起エネルギー伝達が確認できた。。さらに,吸収スペクトルと蛍光励起スペクトルを比較し,β-apo-8’-carotenalからBchl aへの励起エネルギー伝達効率を算出したところ80%であり,紅色光合成細菌Rhodospirillum rubrum 由来のLH1複合体において,励起エネルギー伝達効率が最も高効率であることが示唆された。 さらに,βapoの緩和過程に関する情報を詳細に得ることのできる近赤外および可視領域でのフェムト秒時間分解吸収分光測定を行った。βapoを再構成したLH1は,近赤外領域にバクテリオクロロフィルのQyに由来する過渡吸収信号を示すことから,βapoからBChl aへの一重項励起エネルギー伝達が行われていることが確認できた。また,βapoのS1/ICT状態に由来する過渡吸収が見られることから,再構成LH1複合体中のβapoでもICT状態が発現することが明らかとなった。さらに,測定結果に対してターゲット解析を行い,再構成LH1複合体中のβ-apo-8’-carotenalからの励起エネルギー伝達過程も示唆した。
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