研究課題/領域番号 |
20J10164
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
鈴木 れいら 熊本大学, 自然科学教育部, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 植物感染性線虫 / 根こぶ形成 / シロイヌナズナ / 網羅的遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
ARF5の上流解析については、ARF5活性化プロモーター領域の探索とARF5上流候補因子の解析を試みた。研究計画通りに進んでおり、ARF5活性化領域については500bpまで範囲を絞り込んだ。ARF5上流候補因子については残念ながらARF5と直接関係する因子ではなかったが、オーキシン合成がARF5とは独立して根こぶ形成に関与していることや、根冠の脱離や細胞壁合成に関わるSMB,BRN1BRN2遺伝子を欠損させると、線虫の侵入に影響があることを発見した。このようにARF5とは別の新しい根こぶ形成関連遺伝子の発見に繋がった。今後はさらに細かいプロモーター領域のDeletionを作成することでARF5活性化領域の特定を進めていく。領域が特定できたら、そこに結合する因子の探索を行い、ARF5の上流因子の同定を目指す。また、ARF5の下流解析については新たに根こぶ形成に関与する遺伝子としてPUCHIを発見した。PUCHIは線虫の感染効率に影響はないが、根こぶ内部に巨大細胞と周辺細胞の中間の大きさの中途半端な細胞が存在する。このことから、PUCHIは根こぶ形成において正常な巨大細胞の発生に関与する可能性が示唆される。このことは、2020年9月の遺伝学会、2020年9月の植物学会、2020年11月の細胞壁オプト若手の会にて「植物感染性線虫の根こぶ形成におけるPUCHI遺伝子の機能解析」という演題で口頭発表済みである。上記の研究成果に加え、採用前に行っていた形質転換体を用いた根こぶ形成関連遺伝子の網羅的探索についてPlant biotechnology誌に論文を投稿し、2021年1月に発表された。さらに、この他にもARF5上流解析にて線虫破砕物による根こぶ様構造の誘導を発見し、ARF5下流解析にて1根こぶの網羅的遺伝子解析を成功させ、それぞれ現在解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者の研究は、植物感染性線虫による根こぶ形成メカニズムの解明である。研究計画の主要な項目である、ARF5の上流解析について、順調に解析が進んでおり、根こぶ形成制御に関わるARF5プロモーター領域の範囲を500bpで2か所あるところまで絞り込んだ。あと少しで制御領域の特定ができるのではないかと考えられる。また、オーキシン合成の関与については、残念ながらARF5との直接作用の可能性は低い事が分かったが、別に根こぶ形成に関与している可能性が浮上している。加えて、ARF5上流候補遺伝子の解析では、これもまた、ARF5との直接的な作用を示す遺伝子は見つからなかったが、いままで報告が少ない、感染効率が上昇する遺伝子を発見した。一方、ARF5下流解析については、新たな下流候補遺伝子としてPUCHI遺伝子を発見し機能解析を行っている。その結果、PUCHI遺伝子は根こぶのもとになる巨大細胞と周辺細胞の運命発生に寄与している可能性を見出した。さらに、1根こぶでの網羅的遺伝子発現解析に成功し、これまで困難とされてきた根こぶ形成最初期に関わる候補遺伝子を同定した。今後、これら遺伝子の解析を進める事でこれまで未知とされてきた、巨大細胞の形成メカニズムの解明に大きく寄与できると考えられる。申請者は他にも、線虫破砕物が根こぶ様構を誘導する事を発見した。この現象は虫こぶでも報告されており、植物寄生の共通メカニズムの解明に役立つかもしれない。このように申請者は、研究計画の主要項目について着実に進行しているだけでなく、新しい研究にも着手し確実に成果を上げている。以上のことから研究は極めて順調に進んでおり、期待以上の研究進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
ARF5上流解析については、ARF5プロモーター領域のさらに細かいDeletionシリーズを作成中である。これにより活性化領域を数十bpまで絞り込める。領域を特定後は免疫沈降法やDapseqの情報を利用し、結合する因子の同定を行う。因子が同定できれば、その因子とARF5の相互作用の解析や、変異体を使った根こぶ形成での機能解析を行う。ARF5下流について、PUCHI遺伝子の根こぶ形成における機能解析については現在変異体を用いた蛍光観察により、詳細な根こぶ内部の発生過程を観察している。これにより、変異体で見られる中途半端な細胞がどのように発生し、PUCHIがどのように関わっているかを解明できる。また、この成果については現在論文投稿準備中である。また、1根こぶでの網羅的遺伝子発現解析により、これまで未知出会った根こぶ形成極初期で機能する遺伝子候補がいくつか単離された。現在この候補遺伝子のレポーターラインを作成しており、変異体と合わせて線虫感染実験を行い、根こぶ形成への関与の有無を検証する。
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