研究課題
本年度は、真空崩壊に伴う粒子生成について扱った。真空崩壊とは、ヒッグス場のような宇宙を満たしている背景場が、トンネル効果により値を急激に変化させる現象である。真空崩壊が生じる時、背景場と結合している粒子はその有効質量が急激に変化することになるため、真空状態(=粒子が1個も存在しない状態)が変化して粒子数が不可避的に変化するのである。この粒子生成を解析するためには、まずトンネル効果による背景場の変化を追う必要がある。これについては、トンネル効果を解析する手法の一つとして近年提唱されている実時間形式を用いることで、真空崩壊に伴ってどの程度の粒子生成が生じるかを計算した。結論としては、期待されていたほどの粒子生成は起こらないことが判明したが、この研究は実時間形式という手法に対して粒子生成という新しい観点からその妥当性を検証するという点においても意義がある。また、上述の研究を行うにあたり、粒子生成が数学的にはストークス現象と呼ばれるものと等価であることを利用し、ストークス現象についての定理を用いることで粒子数を解析的に評価した。このような手法は宇宙論の分野においてはまだほとんど知られていなかったため、この評価手法そのものについて論ずる論文も出版している。論文にある評価手法を用いることにより、数値計算に頼らざるを得なかったような複雑な粒子生成の計算、例えばプレヒーティング(preheating)においても適切な近似の下で解析解が与えられるようになるため、この結果は極めて有用である。
3: やや遅れている
当初計画においては本年度中にシカゴ大学に滞在し、重力的粒子生成についてKolb教授と共同研究を行う予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響によりシカゴ大学が海外からの研究滞在を認めなくなってしまったため、この共同研究の計画については進捗が見られなかった。
翌年度、アメリカ合衆国における新型コロナウイルス感染症の状況が好転し次第渡米し、当初計画通り重力的粒子生成についての共同研究を行う予定である。また、クインテッセンシャル・インフレーションに基づいた宇宙再加熱過程の解析については、シュウィンガー効果を用いたモデルの検討を進める予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Physical Review D
巻: 103 ページ: 045006
10.1103/PhysRevD.103.045006
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
巻: 6 ページ: 035002
10.1117/1.jatis.6.3.035002