本年度は,前年度で明らかにした「自己運動知覚における重力中心座標の影響」に着想を受け,検討対象を空間認識全体に広げ,垂直知覚における重力中心座標と自己中心座標系の影響を調査した.実験ではバーチャルリアリティ(VR)空間に表現した室内の3Dモデルをヘッドマウントディスプレイにて呈示し,垂直知覚及び頭部角度を測定した.VR空間は視線軸に対して360度の範囲でいずれかに傾いた状態で呈示された.VR空間の傾きに対する垂直知覚のバイアスを重力軸・自己身体軸・視覚的垂直軸の3ベクトル合成にてモデリングした結果,これらの座標軸が異なる重みづけを持ちながら垂直知覚に影響していることが明らかになった.更に,視覚的垂直軸は視覚手がかりの種類によって更に3軸(幾何学的傾き,レイアウトの傾き,物体の傾き)に分割されることがわかった.VR空間の傾きに対し,垂直知覚のバイアスだけでなく頭部回転反応も生じることが示された.頭部回転反応における各軸の重みづけパターンは垂直知覚と一致したが,知覚に比べ明瞭なものではなかったことから,知覚と姿勢制御が部分的に異なる機構により処理されていることが示唆された.前年度の成果と併せ,VR空間における人間の空間認識が視覚情報,身体情報,重力情報の統合によって形成されることが示唆された.本研究成果は国内外の学会や論文誌にて報告された.今後の研究では,多感覚統合から成る空間認識の神経メカニズムを,脳機能イメージングを用いて明らかにする.
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