研究実績の概要 |
上皮組織の恒常性は、質の良い幹細胞のクローン拡大によって質の悪い幹細胞が組織から排除される「幹細胞競合」によって保たれること、およびクローン拡大能は加齢に伴い低下することを、申請者らは明らかにした(Liu, Matsumura, Kato et al., Nature. 2019)。しかし、なぜクローン拡大能が低下するのかに関しては明らかになっておらず、抗老化手法の開発に向けた次なる課題となっていた。 申請者らは幹細胞競合の詳細なメカニズムを明らかにするため、一部の表皮幹細胞に人為的にDNAダメージを誘導し、かつ、その細胞を可視化できるマウスモデルを作製し、DNAダメージの生じた細胞が1か月以内に表皮組織から排除されることを明らかにした。本マウスにおいてDNAダメージが誘導された細胞の運命追跡、および当該細胞を単離しての遺伝子発現解析によって、DNAダメージが生じた表皮幹細胞は分化を介して表皮から排除されること、および分化マーカー遺伝子の発現は、幹細胞ニッチ(基底層)に存在している段階で既に上昇していることを明らかにした。一方で、加齢に伴う幹細胞競合の鍵分子であるCOL17A1に関しては、遺伝子レベルおよびタンパクレベルで発現の変化は認められなかった。 さらに、上記のマウスのDNAダメージを誘導していない幹細胞は、対照マウスの表皮幹細胞と比較して一部の遺伝子の発現が変化していることも明らかになり、DNAダメージを誘導された幹細胞が何らかのシグナルを介して周囲の幹細胞の性質を変化させている可能性が示唆された。 上記の内容について、現在学術雑誌に投稿中である。
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