本年度は、起立動作の運動プログラムをヒトがどのように生成しているのかを明らかにするため、膝の可動性が低下した際の起立動作の筋活動の変化を調べた。ヒトが多様な環境や身体の状態で起立動作を行うためには、多様な環境や身体の状態に応じて適切に運動プログラムを生成する必要がある。そのため、起立動作のリハビリテーション等において、適切に運動プログラムを生成できるようにすることは重要である。ヒトが起立動作の運動プログラムをどのように生成しているのかは明らかとなっていないため、本研究では、膝可動性低下という身体の変化に対して、ヒトが筋活動をどのように変化させるのかを調べることによって、ヒトが起立動作の運動プログラムをどのように生成しているのかを明らかにすることを目指した。高齢者疑似体験装具を用いて膝の可動性を低下させ、その状態で起立動作の計測を行った。通常の起立動作を30回、膝装具装着時の起立動作を30回、膝装具を外した後の起立動作を30回、この順で計測した。起立動作の筋活動は、前屈、離臀、伸展、安定化の、金シナジーと呼ばれる4種類の筋活動のグループに分割し、解析した。その結果、膝可動性低下時には、前屈の筋活動が増加し、離臀、安定化の筋活動が低下することが明らかとなった。これは、前屈を勢いよく行うことによって膝可動性低下を補ったと考えられ、前屈の活動増加は、起立動作の運動プログラムの変化を反映したものと考えられる。このことから、前屈の活動の大きさが起立動作の運動プログラムにおいて重要な役割を占める可能性が示唆された。今後、他の様々な環境や身体の変化において検証することが求められる。
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