医薬品開発において、候補となる化合物の結晶多形制御は極めて重要である。本研究では、安定性の高い準安定形結晶を作製できる結晶化プロセスの確立を目的としている。不安定な相である準安定形を結晶化するためには、核形成時に準安定形のみを晶出する必要があり、これまでフェムト秒レーザーを用いた結晶化制御に取り組んできた。結晶化メカニズムとして、溶液中で形成されるキャビテーションバブルが局所的な濃度上昇を引き起こし、結晶化を誘起することが考えられており、さまざまな化合物に対して結晶化制御が期待されている。一方で、さまざまな化合物に適用するためには、化合物に応じて核形成を誘起できる濃度上昇を引き起こす必要がある。本年度は、モデル材料として1パルスのレーザー照射で結晶化の観察が可能なアントラセンを用い、レーザー照射による濃度変化の可視化と結晶化の観察を試みた。濃度変化を可視化する手法として、シャドウグラフ法及びシュリーレン法を適用した。容器底面側からのレーザー照射及びキャビテーションバブルと結晶化の観察に加え、本研究では、底面側からに加えて側面側からも同時に観察しながら濃度場を可視化した。その結果、これまで球形として考えられてきたキャビテーションバブルは、照射方向に伸びた楕円球状をしており、長軸方向の収縮が濃度変化を引き起こしていることを初めて明らかにした。さらに、キャビテーションバブルが圧壊した後に、アントラセンの結晶核形成の場となったと考えられる高濃度領域の形成過程を見出した。 以上のように、本年度は研究課題である準安定形結晶化作製のための結晶化プロセスの確立に対して、準安定形核発生の実現が期待できるレーザー誘起結晶化における高濃度場形成を観察した。核形成の場と考えられる高濃度場形成過程を見出した本研究成果は、より結晶核形成の制御性を向上させ、高効率な結晶化を実現につながると考えられる。
|