本年度は①岩石上でのコケ栽培実験系の確立、②桜島溶岩上でのスナゴケ栽培実験と溶出元素量の解析、③石灰岩・蛇紋岩上でのコケ栽培実験、④ヤマトキヌタゴケ・石灰岩境界の非破壊分光分析に関する論文の出版を行った。以下主に①-③について報告する。 ①では昨年度に引き続き、桜島溶岩上でのエゾスナゴケの栽培実験を試み、半年以上の期間安定してコケを栽培する事ができる条件を設定した。 続いて②の実験として、2x2x1 cmに切り出し成形した桜島溶岩を殺菌処理したのち、スナゴケの緑色部分を刻んだものを散布して蓋付きのガラス容器内で栽培した。コケは、殺菌処理を行っていないものと、あらかじめ亜硝酸ナトリウムで殺菌処理をおこなった2パターンをまきゴケした。脱イオン水のみを与えて栽培し、1,2,3ヶ月後にサンプルを回収して容器内に溶出した元素量とコケの植物体に取り込まれた元素量を定量し、コケを植えなかった場合の元素の溶出量との比較を行った。元素量の測定にはICP-OESを用いた。栽培完了後の岩石表面の分析もSEM-EDXを用いて行った。また、殺菌処理によってどのように細菌叢が変化したかを調べた。 ③では、石灰岩と蛇紋岩を2x2x1 cmに切り出し成形したものに、これらの岩石上でも生育が可能であると期待されたギンゴケを①によって確立した栽培系で栽培を行った。いずれの岩石上でも、ギンゴケは植物体を岩上に固定することができたが、植物体重量は増加せず枯死した。これらの岩石は一般的には植物の生育を阻害するものであるが、今回生育がみられなかったのは岩石の水保時能力の少なさによるものであり、今後高湿度環境を保持できる栽培系を確立する事ができれば、生育を行うことが可能であると予想された。
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