研究課題/領域番号 |
20J10496
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森田 大樹 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 高ネルギー密度科学 / イオン加速 / 強磁場 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、当該分野で広く用いられるレーザー駆動コイルという磁場発生手法を用いて、従来のイオン加速メカニズムを増強し、イオンの最大加速エネルギーを引き上げることを目的としている。採用1年目においては、本研究の基盤となる、室温から数10万度という広い温度領域における導電率の温度依存性と、加熱に伴う物性変化を考慮したレーザー駆動コイルのモデル構築という2点についての研究に従事した。採用1年目では、計画していた上記2点の課題に取り組み、広い温度領域における導電率の温度依存性の評価と、その結果を用いた導体中でのJoule加熱に伴う導電率変化を自己無撞着に含んだレーザー駆動コイルのモデリングを遂行した。また、本成果は2020年度に国際学術誌Physical Review Eに掲載された。 上記の成果に加えて、2019年度(採用までの準備期間)に強磁場中でのイオン加速の原理実証実験を試みた。実験結果から、レーザー駆動コイルにレーザー照射する際に生成されるプラズマとコイルが高温になることで放射されるX線が、イオン源である薄膜表面をプラズマ化し、イオンの最大加速エネルギーを低下させるという問題点を示した。本成果についても採用1年目中に国際学術誌High Energy Density Physicsに発表されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
報告者は採用1年目の研究として、「WDM状態における導電率の温度依存性の評価」と「レーザー駆動コイルのモデル構築」という2点について達成した為、計画していた研究は概ね順調に進んでいると判断する。 WDM状態における導電率の温度依存性を調べるために、第一原理分子動力学法という計算手法を用いた。この手法は、主として固体物性や、分子化学などの分野で広く活用されている方法である。レーザー駆動コイルのモデル構築において、Joule加熱に伴い、標的物質の物性が時々刻々と変化する。特に、電磁現象の動的変化を取り扱う際には、広い温度領域における導電率の温度特性が重要になる。まず初めに、QMDと修正Spitzerモデルを組み合わせることで、300 K -100 eVといった幅広い温度領域における金の導電率の温度特性を評価した。本研究成果は、国内外での学会で発表している。 また、レーザー駆動コイルのモデリングには、そのモデルの妥当性を担保するためにレーザー駆動コイルで生成される磁場の時間発展を知る必要がある。そこで、磁場による高エネルギー荷電粒子ビームの偏向を利用した計測手法を用いて、レーザー駆動コイルで生成される磁場の時間発展を計測した。 得られた導電率の温度特性を利用し、電流密度の拡散現象とJoule加熱による抵抗変化を考慮したレーザー駆動コイルのモデルを開発し、実験結果との検証を行った。得られた実験結果は、磁場は初期の1 nsで急速に立ち上がり、レーザー照射中、緩やかに増大し続けるということを示した。モデルの結果は実験データとよく一致している。実験データと開発したモデルとの比較から、レーザー照射後半に見られた磁場の緩やか増加は、Joule加熱に伴う抵抗の低下に伴うものであることが明らかになった。これらの結果に関しては研究実績の概要でも述べたように、国際論文誌に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要にも記載の通り、報告者は採用1年目にレーザー駆動コイルで磁場を発生させる際に2次的に発生するX線や高温プラズマがイオンの最大エネルギーを低下させるという課題を提示し、これについて学術論文を発表した。同時期に、この問題を解決すべく、レーザー照射時に発生するX線とプラズマがイオン源である薄膜裏面に到達しないように裏面にコーンを取り付けて磁場中でのイオン加速の実験を試みた。しかし、薄膜裏面にコーンを取り付けると、レーザー駆動コイルの有無に関わらずイオンのエネルギーが低下するという結果が得られた。この結果を受けて、レーザー駆動コイルという方法で外部から磁場を印加するのではなく、レーザー照射時に自己生成される磁場を用いるという代案でイオン加速の実験を行なった。本手法では、自己生成磁場によってイオンのエネルギーが磁場の影響を受けることを示唆する結果が得られた。自己生成磁場を用いることで発生する電子ビームの発散角が低減されること自体はすでに実証されている。しかし、この電子ビームの発散角低減がイオンビームに与える影響については、観測された例がない。 以上のことから、採用2年目では当初予定していた、①金属薄膜への磁場拡散シミュレーション、②拡散磁場中における電子の軌道計算、を実施することに加えて自己生成磁場によるイオン加速の増強についても並行して研究を進めていく。この研究については、A. 2温度状態における物質の導電率の温度依存性、B. 自己生成磁場を用いた薄膜裏面での電場分布の変化、という2点について明らかにし、従来の方法と比べたイオンの高エネルギーを目指す。
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