ガラスは原子がランダムに配列したアモルファス構造をとる.このランダムな原子配列が,振動数異常(ボゾンピーク)や弾性率の不均一性などのガラス特有の現象の原因であることが示唆されている.しかし,このランダムな原子配置を直接観察する手法がなく,3次元原 子構造は未解明 である.ガラス材料及びガラス転移現象に見られる特異な現象を,原子構造と関連づけて理解するために,アモルファスとの 3 次元原子構造の解明が望まれてきた.そこで,本研究では,まずナノメートルスケールでの組成と試料厚の計測手法の開発に取り組んだ.解析には高い空間分解能を持つ走査型透過電子顕微鏡を用いて観察を行った. 従来,走査型電子顕微鏡では,回折法や分光法によって組成・試料厚を測定することが主であった.しかし,回折法は,規則的な原子構造を持たない非晶質材料への適用が難しく,分光法は多量の電子線照射が必要となるため,電子線ダメージが問題となる.そのため,走査型透過電子顕微鏡による非晶質材料の組成・試料厚計測には決定的な手法が存在しなかった. 本研究では,非晶質の回折図形から組成・試料厚の決定を試みた.非晶質材料の高角度側の散乱強度分布は,組成と試料厚に依存する.この強度分布からの組成・試料厚の計測を試みた.実験で得た回折図形とシミュレーションによって作成した様々な組成・試料厚での回折図形を比較し,実験で用いた試料の組成・厚さを計測した.また,走査全点の回折図形を記録することが可能な,4D-STEM法を用いて試料の組成・試料厚分布の計測を行った. その結果,BaO-SiO2二元系ガラスに対して,組成・試料厚分布の計測をEELSの1/2000以下の電子線照射量で測定することに成功した.
|