研究課題/領域番号 |
20J10506
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤本 悠輝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 中性子星 / 状態方程式 / 摂動QCD / 機械学習 / クォーク物質 / 核物質 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、中性子星を筆頭とする極限環境下で実現される高密度の核・クォーク物質に主眼を置き、その性質を解明することを目的としている。高密度物質を特徴付ける量のうち最も重要なものは、圧力と密度の関係式である状態方程式である。近年の発展がめざましい中性子星観測と理論の両輪から状態方程式に著しい制限をかけることを目指す。 本年度は、以下の4点について一定の進展が見られた。 (1)既存の摂動QCD計算に、再和という方法を用いて高次項を取り入れた定式化を行った。結果として、摂動計算の適用範囲が従来の摂動計算に比較して押し広げられることがわかり、理論の未定係数由来の不定性が縮小されることがわかった。 (2)状態方程式を推定するための機械学習を用いた統計的手法について改良を行い、手法の有効性について批判的な立場から検証した。また、本手法は、広く誤差を取り扱う機械学習の問題に応用できることを議論して、その切り口で数値実験を行い実証した。近年新たに得られた中性子星観測データを用いて、状態方程式の推定を行った。 (3)近年の状態方程式研究から、核物質からクォーク物質への相転移は、1次転移ではなくクロスオーバー的である可能性が示唆されている。このようなクォーク・ハドロン連続性のシナリオを、ストレンジクォークの質量が重要となる領域で定式化した。また、この研究で明らかになったクォーク物質の新奇相で生じる非可換渦についての研究を行った。 (4)相対論的重イオン衝突実験で生成されるクォーク・グルーオンプラズマの高速回転を念頭に、高温・高密度物質の閉じ込めが回転下でどのように変化するかを現象論的模型を用いて定量的に検証した。結果として、回転が高速になるに従って非閉じ込め転移の臨界温度が押し下げられることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では2年かけて機械学習による状態方程式の推定と摂動QCD計算を完遂するはずであったが、どちらも期待以上の進展があり、今年度中に一定の成果を上げることができた。コロナウイルスの影響によって出張等がなくなってしまったが、それと引き換えに切り刻まれない時間が確保できた。それによって、当初の計画では一筋縄ではゆかず特に難航すると思われていた摂動QCD計算を、一気呵成に仕上げることができたのは思わぬ収穫であった。また、クォーク物質の新奇相で生じる非可換渦の研究については、セミナーでの議論が契機となり始まったもので、計画にはない望外の僥倖であった。
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今後の研究の推進方策 |
摂動QCD計算の結果と機械学習による状態方程式の推定結果と合わせてプロットすることによって、低密度側から高密度側に大きな不連続なく状態方程式が連続的につながっているという定性的振る舞いが明らかになった。この振る舞いを手がかりとして、今後はさらに現象論的な立場を一歩超えて、実体論的な立場から核物質・クォーク物質の状態方程式について論じたい。また、これらの計算結果を利用して、観測可能な具体的なシグナルなど現象論的考察もさらに推し進めたい。
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