研究課題/領域番号 |
20J10548
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柴田 基樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 会合性高分子 / ランダム共重合体 / ミセル / ゲル / 相分離 / 高次構造 / 自己組織化 / 温度応答性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,会合性高分子の一次構造(主鎖の構造や官能基の種類)から,水溶液中における高次構造(ミセル,ゲル,相分離)の形成を予測し,会合構造を自在に構築する方法論を構築することを目的とする.具体的には,一次構造が制御され,均一性の高い高次構造の前駆体となる会合性高分子の合成法を開発するとともに,これを用いて一次構造が高次構造の形成と物性に与える効果とその分子機構を解明する.これを踏まえて,今年度は以下の研究を行った. (1)一次構造に応じた高次構造形成の階層性に関する調査 親水性ポリエチレングリコール側鎖および疎水性アルキル側鎖の構造,ならびに共重合組成の異なる会合性ランダム共重合体を,リビングラジカル共重合により精密合成した.その後,各共重合体の水中におけるミセル形成に加え,昇温に伴うゲル化と相分離を,サイズ排除クロマトグラフィ,多角度光散乱,光透過率測定および巨視的観察により系統的に調べ,相図を作製した.その結果,共重合体の一次構造に応じてミセルの形成挙動(多分子または単分子会合)と構造が変化し,これと高分子濃度が,巨視的な相挙動であるゲル化・相分離を左右する要因になることが明らかになった.特に,ミセルが多分子から構成され,溶液の濃度がミセルの重なり濃度を超える場合に,昇温に伴いミセル間の物理架橋によるゲル化が進行することがわかった. (2)昇温過程におけるミセル間架橋の分子機構に関する調査 上述の温度応答性ゲル化の分子機構を調べるべく,昇温過程における共重合体水溶液のプロトン核磁気共鳴測定を行った.その結果,ゲル化を引き起こす共重合体の水溶液では,曇点付近で,疎水性側鎖のみならず,親水性側鎖の運動性も顕著に低下することが明らかになった.これは,ミセル間架橋に,疎水性部分同士の相互作用に加え,温度応答性のポリエチレングリコール鎖も関与していることを意味している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は,新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い,研究施設の利用制限や必要な物品の納期遅延等の事象が発生した.しかしながら,後述するように,高次構造の階層的制御が可能である会合性高分子水溶液系を見出し,その分子機構を含めて系統的調査を行い,得られた知見を学会,シンポジウムおよび原著論文の投稿を通じて発表するなど,概して所期の通りの成果を得られたといえる.そのため,研究全体としては,おおむね順調に進展しているという自己評価を行った. 当該年度は,会合性高分子の水中における高次構造に一次構造が与える効果とその機構について,主に合成実験および物性実験によるアプローチに基づき研究を行った.その結果,一次構造の均一性が高く,しかもミセルの形成様式や構造と,ミセル間会合に起因する温度応答性ゲル化を,一次構造を通じて調節できる系を構築することができた.そして,これに対し,ミセル形成挙動の多面的評価,相図の作製,温度応答性の分子機構に関する検討を通じて,現象の解明を進めることができた.一方で,本研究の対象としたミセルおよび温度応答性ゲル系の詳細な挙動が明らかになるにつれ,散乱法やレオメータなどによる測定に際し,計画段階では予期しえなかった技術的困難も生じた.その結果,温度応答性ミセルおよびゲルのより詳細な構造解析と,粘弾性などの物性評価,およびこれに基づく理論あるいはシミュレーションによる解析については,若干の遅延が生じたという面もある.ただし,これらについても,すでに予備的検討は行っており,次年度にこれらの測定および解析を推進させることができると考えている.このような状況を総合して,研究全体としては標記の自己評価を行った.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,令和2年度の進捗に鑑み,散乱法によるミセルとゲルのより詳細な構造解析と,ゲルの物性および形成過程の評価を引き続き行う.小角散乱法を用いて,ミセル全体,およびそのシェル(親水性側鎖による外側の層)とコア(疎水性部分による内側の領域)のサイズと形状を評価するとともに,ゲルにおけるミセルの凝集様式についての情報を得る.このような構造解析については,モデルの構築および解析手法の確立など,すでに予備的検討を進めているため,十分に遂行可能であると考えている.また,レオメータにより,温度応答性ゲル化の過程と,ゲルのレオロジー的性質をより定量的に評価する.これについても,同様に測定条件および装置の最適化を進めている.現象のさらなる理解のために,ゲルの形成過程についてのより詳細な知見が必要となった場合,示差走査熱量測定などの熱測定も追加で行う. また,当初の年次計画に従い,会合性高分子の高次構造およびその形成,物性に関して,理論を用いた予測を行い,これを実験による知見に基づき検証する.これまでに構築してきた会合溶液理論を,実験系をモデル化した系に対して適用することにより,実験事実に基づき得られたミセル,ゲルの詳細な構造と温度応答性,粘弾性的性質に関する知見に,分子論的裏付けを与える.必要に応じて,粗視化モデルあるいは全原子モデルを利用した分子シミュレーションを行い,構造形成の定量的理解を図るとともに,側鎖あるいは官能基間の相互作用に関する情報を得る. これらの取り組みを通じて得られた成果については,国内外の学会およびシンポジウムに加え,国際学術誌上の原著論文を通じて公表する予定である.
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