【研究背景】半導体量子ドットは高効率で単色性に優れた蛍光を発する次世代材料として注目されており、粒径と組成の制御により可視から近赤外までの広い波長範囲をカバーできる。しかし、配位性有機化合物で構成される表面修飾剤は化学的ダメージを受けやすく、その結果著しい蛍光クエンチが起こることが課題となっている。
【研究目的】本研究では、有機配位子に代わって量子ドットの表面を金属有機構造体(MOFs)によって強固に保護することで、量子ドット周辺部分の電子構造最適化による蛍光特性向上や、両材料が持つ光電子機能の相乗効果による新しい光物性の発現させることを目的としている。両材料を直接接触させることで、MOFsによる量子ドットの新機能発現が起こりやすい系の構築を試みた。
【研究成果概要】本年度は、紫外光を吸収し、青色発光するIRMOF-3を量子ドット表面から析出させ、量子ドットがIRMOF-3に包埋された形状を有するコア/シェル型複合体を作製した。IRMOF-3から量子ドットへのフェルスター型エネルギー移動が発生していることを確認し、コア/シェル型複合体において、IRMOF-3層の体積が比較的小さい場合、量子ドットの発光増強が起こることを確認した。時間分解測定を行ったところ、エネルギー移動のドナーとしての作用により、IRMOF-3の発光寿命が低下することが確認された。フェルスター型のエネルギー移動を基に考察を行ったところ、IRMOF-3が量子ドットから数ナノメートル以内に位置するかどうかが効率的なエネルギー移動を実現する上で極めて重要であることが明らかになった。その点で、ポリマー等の緩衝層を一切設けることなく、量子ドットとIRMOF-3を直接接合させるという設計が、両者の間の距離を最小に保ち、効率的な発光増強に寄与していることが判明した。
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