研究課題/領域番号 |
20J10608
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山澤 春菜 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | IJV / 置換換気 / 実大実験 / 温度成層 / 換気効率 / 気流の可視化 |
研究実績の概要 |
昨今、コロナ禍の影響もあり、換気や室内空気質に対して人々の注目が集まっている。エネルギー性能のみならず、換気による室内空気質の維持・向上への欲求が高まっているのである。現在主流の換気方式は、室内空気を混合希釈することにより換気する混合換気方式だが、この方式は室内の汚染空気を攪拌してしまうという難点がある。一方、置換換気方式(以下、DV)は冷房時の換気効率に優れるものの暖房に適さないとされる。そこで、高い換気効率を有しつつ暖房にも適用可能とされるImpinging Jet Ventilation方式(以下、IJV)に関して研究する。 研究計画においては、i) 他換気方式と比較することで長所・短所を明らかにし、ii) 冷暖房運転時における挙動を浮力と運動量の関係のもと整理し、iii) 暖房でも適用可能とされるIJVについて、暖房運転時における挙動を明らかにし、iv) 本来は静穏な環境が望まれる温度成層の形成と比較的大運動量での噴流による給気を同時に解析する手法を確立して様々な条件下での検討を行い、v) 脈動しながら室に給気される噴流による局所的な気流分布と室全体における環境を分離して評価する簡易計算モデルを構築する。 i)~iii)の実験・実測の知見をもとに、iv)で解析手法を確立して各物理的なパラメータの影響を探り、v)で設計者のための簡易計算モデルを構築することを目的とする。 2020年度は、前述のi)~iii)に関して実大実験による詳細な検討を行い、iv)についても検討を開始している。特にi)~iii)については、冷房、暖房条件下それぞれにおける温熱環境形成・換気効率に関する検討を行い2本の国際ジャーナルを執筆し、投稿・出版されている。それらの中では、冷房におけるIJVのDVに匹敵する冷房・換気効率の高さと、暖房に適さないとされてきたDVの暖房への適用可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下のような項目で研究を行なった。(1), (2)の内容はそれぞれジャーナルに投稿し採択・出版された。 1)冷房条件下におけるImpinging Jet Ventilation system (以下、IJV)と置換換気(以下、DV)の実大実験による比較:換気量・温度の組み合わせ、給気装置の数、換気システムの種類(IJV・DV)などを変化させて冷房実験を行行った。IJVによる室内環境は、給気条件によってDVによる室内環境と完全混合状態との間を変化することが確認された。また、IJVは足元の過剰冷却を防止することが可能であるとの知見を得た。 2)暖房条件下におけるIJVとDVの実大実験による比較:外壁からの貫流熱を暖房負荷として、換気量・温度の組み合わせ、給気位置、換気システムの種類などを変化させて、暖房条件下での実大実験を行った。温度分布性状の観点ではIJVがDVよりも良好な環境を形成する傾向が確認されたが、概ね一定の汚染質分布が形成可能なIJVに対し、DVでは給気条件によって分布が異なることが示された。 3)等温・冷房・暖房条件下におけるIJV吹出し装置付近での気流分布の把握:IJV吹出し装置付近での気流分布を把握するため、高精度風速計を用いた等温気流場での測定とPIVによる等温・冷房・暖房条件下での気流分布測定を行なった。また、IJVとDVの吹出し装置付近における気流の可視化も行なった。測定結果より、吹出し後の気流分布を把握するとともに、DVでは暖房利用時に比較的急激に給気が上昇してしまうということが確認された。 4)実大実験結果との比較によるCFD解析手法の予備検討:次年度にCFD解析手法を確立することを目指し、CFD解析手法の予備検討を行なった。この検討は1~3の結果を正解値としており、次年度には本検討を行うとともにパラメトリックスタディを行い論文を執筆予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、コンピュータ解析を用いたIJVによる室内気流解析を行い、実験では確認することが難しい条件を様々に変更してパラメトリックスタディを行い、IJVにより形成される室内環境についての知見を深める。また、計算モデルによる簡易な室内環境予測モデルを構築するため、パラメトリックスタディによる結果を真値として計算モデルを検証し、精度を示す。 具体的な推進方策は以下の通り。 1)2020年度における実験結果を用いてIJVを有する室内を解析する際の最適なコンピュータ解析手法を確立する。このとき、IJVにおいては中程度の運動量で吹き出す吹出し口風辺の流速と、室のそれ以外の部分における比較的静穏な環境とを同時解析することが可能な解析手法を検討する必要がある。2)前項の結果をもとにパラメトリックスタディを行い、実験結果と合わせて、浮力や運動量といった物理的な傾向と換気効率などの人体への影響を定量的に把握する。実大実験室では変更することが難しい室形状や外気条件を容易に制御でき、室内の気流・温度・空気質性状をほぼ連続的に把握することができるため、より多くの条件で詳細な検討を行う。3) IJVによる室全体の環境と局所的な傾向とを分離してモデル化し、パラメトリックスタディの結果と比較することで精度を検証する。 i) 実大実験結果によるコンピュータ解析の精度検証およびパラメトリックスタディによる各環境条件の感度解析と相関の確認、ii) 簡易計算モデルの理論概要及びコンピュータ解析によるモデル計算の精度検証でそれぞれ1本ずつジャーナルを執筆し、投稿予定である。
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備考 |
申請者が所属する研究室のホームページ
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