本年度は、B細胞増殖因子であるInterleukin-6 (IL-6)について、コイIL-6の組み換えタンパク質を作製し機能解析を行った。実験の結果、コイIL-6はIgM陽性細胞の増殖を促さず、コイにおいてはIL-6以外のB細胞造血因子が存在する事が示唆された。他魚種において、IL-6がB細胞の増殖因子として機能していた事から、真骨魚類においてB細胞増殖因子の保存性は低いことが示唆された。 造血幹/前駆細胞増殖因子については、昨年度に機能解析を行ったKit-ligand (KITL)のレセプターとなるKITについて研究を行った。コイは疑似四倍性魚種であるため、哺乳類と相同な分子を2種類以上保有している事が知られている。コイは2種類のKIT、すなわち、KITa及びKITbが存在するため、それらの遺伝子発現解析を行った。その結果、KITaが造血組織である腎臓や多くの臓器で恒常的に発現している事が分かった。昨年度の結果において、コイのKITLaとKITLbのうち、KITLaがコイ造血前駆細胞の増殖を促したことから、KITLa-KITaシグナルが造血に重要であり、KITaがコイ造血細胞に有用なマーカーとなり得ることを明らかにした。今後、魚類造血細胞に対し、KITLaの組換えタンパク質やKITaを標的とした抗体を用いる事で、造血幹細胞の分化ネットワークのより詳細な解析が可能になると考えられる。
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