本研究では骨格筋萎縮作用を有するTGF-betaファミリー分子のミオスタチン(GDF8)、GDF11、Activin(治療ターゲット分子)の阻害剤としてFSTL3に着目した。さらにIgG1のFc領域を融合させ、分子中にFSTL3領域を2つ持つ2価FSTL3-Fc、1分子だけ持つ1価FSTL3-Fcの2つの型を開発した。両型に共通してin vitroの実験系にて治療ターゲット分子への結合と活性の阻害を示し、TGF-beta3、BMP6及びBMP9に対する結合と活性の阻害を示さなかった。 健常マウスに2価FSTL3-Fcを投与した結果、肝臓への集積が確認され、血中半減期は1時間程度と考えられた。2価FSTL3-Fcがマウス体内で安定性に乏しい理由として、治療ターゲット分子と2価FSTL3-Fcによる高次の複合体の形成が考えられた。治療ターゲット分子との結合を単純にする目的で開発した1価FSTL3-Fcの血中半減期は、2価FSTL3-Fcに比べ改善され、Fcを投与した場合と同等以上の体内安定性が示唆された。 FSTL3-Fcは健常マウス及びデュシェンヌ型筋ジストロフィー症モデルマウスであるmdxマウスにおいて、骨格筋肥大効果を認め、ActRIIB-Fcで認められた副作用は確認されなかった。マウス体内において2価FSTL3-Fcは投与した骨格筋周囲に作用し、1価FSTL3-Fcは全身性に作用する事が明らかになった。 FSTL3-Fcの骨格筋肥大効果は既存の治療薬候補の効果に劣らず、十分な効果であったと考察された。本研究は、がん悪液質や筋ジストロフィー症、サルコペニアに代表される筋萎縮症に対し、副作用なく患者の骨格筋の筋量を保つ事で、自立した生活を支える新規治療薬としての可能性を示唆することから、社会的なインパクトの大きい成果と考えられた。
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