昨年度までは、束状凝集現象のメカニズム候補として、細胞サイズ分布の変化について調査を行っていた。本年度は、当初計画段階で考慮していた細胞外高分子(EPS)による枯渇引力の影響と、細胞の成長停止による影響を、本格的に調査した。 まず、EPSによる束状凝集現象への影響を調べるために、EPS分泌を網羅的に阻害できるビスマスジメルカプロール(BisBAL)を投与した状態で、栄養飢餓下で束状凝集が引き起こされるかを調査した。すると、BisBALがない場合に比べて有意に束状凝集の頻度が下がることを発見し、EPSが束状凝集現象に関わっていることを立証した。また、EPSの網羅的な阻害だけではなく、細胞外蛋白質や膜小胞など具体的な物質による効果も調査し、EPSのみが束状凝集の主要因ではないことを見出した。 そこで、飢餓による細胞成長の停止も束状凝集現象に関わることを以下の通り示した。まず、束状凝集の強さを定量的に評価する秩序変数を定義することに成功した。この秩序変数を用いて、飢餓による束状凝集が起きた後(束状凝集を引き起こすのに十分な量のEPSが分泌された後)に、再び栄養を供給し、細胞成長が再開した際の束構造の変化を評価した。すると、細胞成長の再開によって束構造が破壊されることを定量的に発見した。つまり、束状凝集現象には、EPSだけではなく、細胞成長の停止も重要であることを見出した。上記の結果の一部は国内学会にて発表済みであり、成果全体をまとめた論文は投稿準備中である。 また、上記の研究のみならず、前年度に取り組んでいた、物質表面に固着したコロニーの調査を継続した。すると、局所的に細胞の向きが揃わない「トポロジカル欠陥」と呼ばれる場所で、細胞が決まった方向に三次元的に傾く「極性秩序」の創発を発見した。この内容は、論文としてarXivに公開済である。
|