研究課題/領域番号 |
20J10739
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 陽平 筑波大学, システム情報工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 折り紙 / 形状モデリング / リンク機構 |
研究実績の概要 |
本研究は「平織りと呼ばれる折り紙の技法を用いることで,フレキシブルに収縮・展開する構造の研究開発」に取り組んでいる.収縮・展開が容易な新しいパターンの作図方法を提案し,工学的に応用できる収縮・展開する構造物のバリエーションを広げることを目的とする.本年度は,剛体折り可能(折りたたむ過程で折り線に囲まれた領域が湾曲・伸縮しない)かつ1自由度で折りたため,折りたたむ過程で常に外周が相似となる特徴を有する展開図を提案した.同展開図は,既存の平織りのパターンの一部にスリットを含める等の変形を加えることで作図できる.作図された展開図は,折り線に囲まれた領域を硬いパネル,折り線をヒンジと見なして稼働するモデルとして扱うことができ,厚みを与えることも可能である.このモデルは,いずれかのヒンジの折り角を定めると,他の折り角も一意に定まり,その仮定で内部応力が発生しない(パネルが湾曲しない)ため,フレキシブルに収縮・展開できるモデルである.モデルの外周に制約は無く,任意の多角形上に折り線とスリットを配置することで,伸縮するモデルを作成できる.このモデルは,相似な形に折りたためるため,多面体の表面を覆うように接続することで,伸縮する立体の構造物が作成できる.こうした体積の変わる立体の構造物は,これまでにない新しい構造物である.本年度は,提案する展開図がこれらの特徴を満たすことを解析的に証明するとともに,収縮・展開の過程を視覚的に確認するための3Dモデルのアニメーションを実装した.また,伸縮が可能な立方体や四角錐の構造物を3Dプリントで出力し,実世界でも収縮・展開が可能であることを確認した.研究の成果は,論文誌や学会主催のイベントで報告し,特に2020年度日本図学会秋季大会では,優秀研究発表賞を受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,任意の多角形にスリットを含む折り線を割り当てることで,剛体折り可能な展開図を生成した.また,3Dプリントによって,実際に稼働するいくつかの構造物を生成した.当初の計画では,スリットを含まない展開図を研究の対象とし,その中から,折りたたむ過程で内部応力が少ないものを発見する予定であったため,計画とは異なる進捗が得られている.しかしながら,本年度に3Dプリントした構造物は,折りたたむ過程で内部応力が発生しない,新たな収縮・展開可能な構造物であるため,研究の目的に沿う成果がえられている..一方,研究成果の外部報告は不十分であるため,今後は査読付きの論文誌や国際会議等へ積極的な参加が必要となる.そのため,研究はおおむね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で示したように,査読付きの外部報告が研究の課題である.新たに成果をまとめる一方で,いくつか採択が決定しているものの発表の準備を進める.また,3Dプリントした構造物を収縮・展開させる過程で,1自由度のリンク機構と同等の構造をしているにもかかわらず,1か所のヒンジを動かしても全体が連動して稼働しない問題が確認されているため,その解決に取り組む. 3Dプリントしたヒンジは,筒の中を軸が通るような形状をしており,この筒と軸の間にある遊びの大きさ,あるいは,異なるヒンジ間の軸の位置に依存する力の伝播が,1自由度の稼働を妨げる原因であると予想している.これらの予想を検証するための実験を,次のとおり計画している.まず,前者については,遊びが極力小さくなるヒンジを新たに設計し,遊びが少なくても滑らかに稼働するように潤滑剤を用いるなどしてその効果を検証する.後者については,計算機上のシミュレートを用いた検証を計画している.例えば,あるヒンジを稼働した際,他のヒンジに対してどのように力が伝播するかを検証する.検証結果を整理することで,すべてのヒンジを同時に稼働させるのに必要な,最低限力を与えるべきヒンジの組み合わせを考察する予定である.
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