イヌ皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)において、多発性の皮膚病変形成および全身転移は重要な予後因子であるが、腫瘍細胞の動態については不明な点が多い。本研究では、CTCL罹患犬の皮膚病変における腫瘍細胞のクローン性を明らかにするためにフラグメント解析を実施したところ、皮膚病変および血液中の腫瘍細胞において同一のクローン性パターンを示すことが明らかとなった。このことから、イヌCTCLでは全身に同一クローンの腫瘍細胞が存在している可能性が示唆され、腫瘍細胞の遊走が皮膚病変形成および転移に重要であると考えられた。 これまでの遺伝子転写解析の結果から、CCR4およびCCR7などのケモカイン受容体がイヌCTCLにおける腫瘍細胞の遊走に関与している可能性が考えられたが、イヌにおいてはCCR7の発現解析法が確立していない。そのため、イヌCCR7トランスフェクタントを用いて6種類の抗ヒトまたはマウスCCR7抗体のイヌCCR7に対する交差性を評価した。しかしながら、いずれの抗体もイヌCCR7に対して交差性を認めなかったため、イヌCCR7のリガンドであるイヌCCL19とヒトIgG抗体を融合させたタンパクを作製した。その結果、ヒトIgG融合イヌCCL19タンパクはイヌCCR7トランスフェクタントのみならず健常犬のリンパ球およびイヌ皮膚リンパ腫細胞株(EO-1)に発現するCCR7も認識することが明らかとなった。 CTCLにおけるCCR4およびCCR7の役割を評価するために、CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集によってCCR4またはCCR7をノックアウトしたEO-1を作製し、SCIDマウスに皮下移植した。その結果、CCR4またはCCR7をノックアウトしたEO-1を移植したマウス(ノックアウト群)では、野生型EO-1を移植したマウスと比較して腫瘍細胞の全身転移が有意に抑制された。
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