有機薄膜太陽電池(OPV)や有機薄膜トランジスタ(OTFT)などのデバイスは、薄膜中の分子配列(分子配向、結晶構造)が性能に大きく影響する。したがって、分子配列を意のままに制御する技術が求められている。これらのデバイスでは、一般的に表面不活性な基板が用いられるため、材料分子間の相互作用が、薄膜構造制御のカギとなる。本研究では、これまで構造制御に用いられていなかった、配位結合を用いた薄膜中の構造制御法を、微小角入射X線回折(GIXD)法とp偏光多角入射分解分光(pMAIRS)法による詳細な薄膜構造解析に基づいて確立した。
前年度までに、有機半導体材料のTetrapyridylporphyrin(TPyP)について、ポルフィリン環の中心金属を変えて、ピリジル基との配位能を調整することで、ポルフィリン環が立ち上がった(edge-on)配向から、寝た(face-on)配向までを制御できることを、1次元GIXD法とpMAIRS法を用いて明らかにした。
本年度は、新しく導入したX線回折装置を用いて、2次元GIXD測定を行い、MTPyP薄膜の結晶構造をより詳細に明らかにした。その結果、中心金属がCu(II)のとき、これまで報告されていなかったtriclinic結晶が含まれることがわかった。Triclinic結晶の形成は、Cu(II)のdx2-y2電子によって環の平面性が向上し、歪んだポルフィリン環を含むmonoclinic結晶の形成が阻害されたことが原因と説明される。すなわち、中心金属を選択することで、配位能だけでなく分子コンフォメーションも制御できることがわかった。この成果は2022年1月に国際的な学術誌Chemical Communicationsに掲載された。
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