研究課題/領域番号 |
20J10844
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高瀬 寛 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | 光量子情報処理 |
研究実績の概要 |
本研究は光量子情報プロセッサの一種であるループ型光回路を実際に構築し,光の連続量を用いた測定誘起型量子計算の原理検証を行うことを目指している.このループ型光回路は,実際に量子情報処理を行う内側ループと,量子メモリーの役割を果たす外側ループからなる.ここまでの研究では内側ループ部分を完成させ,量子ゲート操作の実証をすることができた. 内側ループの要素は①ループ回路の入出力部分にあたる透過率可変ビームスプリッタ②ループ長を所望の長さに調整するための光学遅延路③ループ回路外の測定器の観測値に応じて操作を行うフィードフォワード系の3つであり,それぞれ開発を行った.本年度は本件度の始めは,このテーマを担当するスタッフが研究室を独立させたことや緊急事態宣言の影響で実験は止まっていた.しかしその後実験を再開し,これまでに構築したループ回路により量子ゲート操作を実証した.行った操作はコヒーレント状態に対するスクイーズ操作である.この成果は現在論文化作業の途中である.この成果により,本テーマの技術開発の中心的な部分は達成されたといえる. また,本課題から影響を受け,光量子メモリーを高性能化する手法と,任意の形状の波束中に量子状態を生成する手法を考案した.光量子メモリーにつては,ループ回路に用いられているポッケルスセルシステムを利用するものであり,本研究の発展的テーマと言える.今後はこれらのテーマについても実験を行っていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ループ型量子情報プロセッサは2重のループ光回路を持つが,実際に論理演算を行う内側のループの構築が特に重要である.ここまでの研究で内側ループの開発が完了したので,おおむね順調に研究が進んでいると言える.内側ループの最大の開発要素は,ループ回路の入出力部分にあたる透過率可変ビームスプリッタ(VBS)である.光量子計算に利用するためには光損失が小さく,高速に切り替えが可能なVBSを実現しなければならない.この要請から,バルクタイプの電気光学変調器(ポッケルスセル)によりVBSを実装することにした.ループ回路は全長が約20 mであり,安定で低ロスな光遅延路の構築が必要であった.光ファイバーではカップリングロスや伝搬ロスが大きくなるので(本研究は波長860 nmの光を使用),フリースペースタイプで安定性の高い遅延路であるヘリオットセルを利用した.ここに,外部に設置した測定器の信号を使ってディスプレイス操作を行うシステムを組み込んで内側ループ回路の完成となった.このシステムはフィードフォワード系と呼ばれ,量子テレポーテーションや測定誘起型量子計算に必須の要素である.フィードフォワード系の評価はキャンセレーションと呼ばれる手法で行った.キャンセレーションでは,変調を加えたコヒーレント光を系に入射し,フィードフォワードにより変調を打ち消す操作を行う.本研究では変調が十分に打ち消されていることを確認し,このループ回路により量子ゲート操作が可能であると判断した. 光回路の構築は順調に達成されたが,今後量子情報プロセッサとしての性能を向上させるには光損失と位相揺らぎの低減が必須になると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,光損失の少ないポッケルスセルシステムを整備することを目指す.物品の選定・発注はすでに進めている.ポッケルスセルは購入先をこれまでのメーカーから変更し,結晶に高スペックなコーティングをしてもらうことにした.それに伴いドライバーなどの周辺機器も変更し,各メーカーと仕様の詳細などをやり取りした.プール回路や量子メモリーでは量子状態がポッケルスセルを何度も通過することになるので,新しいポッケルスセルシステムの活用によりこれまでの研究のレベルを引き上げることができる.また,量子ビットなどの非古典性の高い状態を生成し,ループ回路や量子メモリー系に導入する実験を行う.状態生成系は光ファイバーベースで構築する予定である.
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