研究課題/領域番号 |
20J10847
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺川 成海 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
キーワード | 原子層物質 / 角度分解光電子分光 / 低速電子回折 |
研究実績の概要 |
本研究は層状磁性体である遷移金属ハライドの超薄膜化による新しい原子層磁性体の作製とその物性解明および、原子層磁性体と別の原子層物質とを積層させたヘテロ構造の作製による新奇物性の探索を目的としている。令和2年度は以下の成果を得た。 (1)層状反強磁性体として知られるFeBr2の超薄膜作製方法を確立した。超高真空槽内でFeBr2粉末を加熱して蒸気を発生させBi(111)表面上に照射することで、FeBr2超薄膜が単層単位で結晶成長することを確認した。 (2)作製したFeBr2超薄膜の原子構造を低速電子回折の動力学的解析によって明らかにした。4層以下まで薄くしてもバルクと同一のCdI2型構造を保っていることがわかった。また、FeBr2超薄膜の電子構造を角度分解光電子分光で測定した。1~4層膜はバルクFeBr2と同様に絶縁体的な電子構造を持ち、その価電子帯の頂点はFe 3d軌道に由来する平坦なバンドにあることがわかった。この結果は、単層FeBr2がハーフメタルであると予想する先行研究の理論計算とは一致せず、電子相関とスピン軌道相互作用の電子構造への寄与が重要であることを示している。 (3)原子層強磁性体とヘテロ構造を作製する際の相手物質となりうる原子層金属の研究も進めた。原子層超伝導体として知られるSi(111)表面上のPb単原子層およびIn2原子層超薄膜にマグネシウムを蒸着することで、Mg蒸着量に応じて複数の新たな表面超構造ができることを発見した。これらの電子構造を角度分解光電子分光で測定すると、いずれも円形に近いフェルミ面をもつ2次元金属であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、層状反強磁性体であるFeBr2について、FeBr2分子を原料とした分子線エピタキシー法により高結晶性の超薄膜を層数制御して作製することに成功した。本手法により、遷移金属ハライドも原子層物質として利用可能となることで原子層物質の物性研究のさらなる発展が期待される。高結晶性のFeBr2超薄膜試料を得たことで、角度分解の光電子分光測定が可能となり、電子構造を実験的に決定することができた。第一原理計算との比較から、電子相関の効果の重用性が明らかになった。本年度に計画していた磁性測定の実験は、高結晶性のFeBr2超薄膜を得るための試料作製条件の最適化や原子構造解析に時間を要したため次年度に実施することにした。 一方、原子層磁性体とのヘテロ構造作製の相手物質となりうる原子層金属の研究を並行して行い、Si(111)基板上においてPbとMg、InとMgからなる複数の2次元金属の作製に成功した。 以上を総合すると、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
当初は、作製した超薄膜試料を超高真空環境に保ったまま磁気光学Kerr効果測定による磁性測定を計画していたが、より迅速に研究を進めるために、試料に保護膜を作り大気中に取り出し、京都大学低温物質科学研究センターの共同利用機器であるSQUID磁束計を用いて磁性測定を行う。 FeBe2超薄膜において磁気秩序が観測された場合、転移温度および磁化容易軸を調べるとともに磁性の層数変化を調べる。また、転移温度前後での電子構造の変化を調べることで磁性発現に寄与するバンドを実験的に明らかにする。 また、別の層状磁性体であるFe3GeTe2に研究を広げ、その超薄膜化と物性解明を行う。バルクFe3GeTe2は、FeBr2と比較して高い磁気転移温度を示し、かつ金属的電子状態を持ち、表面に金属原子や分子を吸着させることで電荷ドーピングよる物性制御が期待される。 また、Si(111)基板上の原子層金属については走査トンネル顕微鏡と低速電子回折により原子構造を決定し、第一原理計算を用いて実験で確認されたバンド構造の由来を明らかにする。
|