申請者はこれまでに侵害刺激による大腸運動応答には明確な雌雄差が存在することを発見してきた。本研究においてこの雌雄差のメカニズムを詳細に検討した結果、脊髄に存在する排便中枢において雌特異的にGABA作動性の抑制性調節が機能していることを突き止めた。雌雄差形成に関与する因子としてエストラジオールやテストステロンといった性ホルモンが知られている。本研究によって明らかになった雌雄差についても性ホルモンが関与するのかどうか検討した。その結果、精巣を摘出した雄においても、無処置の雄と同様に侵害刺激によって大腸運動が促進された。一方で卵巣を摘出した雌においては、無処置の雌の場合と異なり侵害刺激によって大腸運動が促進されるようになった。このことから、侵害刺激による大腸運動応答の抑制には卵巣由来の性ホルモンが関与することが示唆された。そこで次に、卵巣由来の性ホルモンとしてエストラジオールに着目し検討を進めた。その結果、卵巣摘出後の雌にエストラジオールを補充することで、無処置雌と同様に応答がみられなくなることが明らかとなった。さらに興味深いことに、エストラジオールを精巣摘出後の雄に作用させた場合にも、脊髄においてGABA作動性の抑制性制御が働くことで、侵害刺激による大腸運動応答が抑制されることを解明した。これらのことからエストラジオールがGABA作動性経路を介して大腸運動応答の抑制に関与すること、さらに、応答抑制機構は雄にも備わっていることが示唆された。これらの研究成果は、排便異常における性差の病態メカニズムの解明に寄与する重要な知見である。
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