研究課題/領域番号 |
20J10988
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
厳 正輝 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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キーワード | フラストレート磁性 / ブリージングパイロクロア格子 / クロムスピネル化合物 / スピン-格子結合 / 極限超強磁場 |
研究実績の概要 |
磁性を担うCrイオンがブリージングパイロクロア格子を組んだ2種類の酸化物Li(In, Ga)Cr4O8に対して、超強磁場下における物性測定を行い、これまで明らかにされていないさらなる高磁場領域における相転移の検出を目指した。 LiInCr4O8については、すでに100テスラにおいて急峻な磁化のとびを伴う1/2プラトー相への相転移が観測されていたが、電磁濃縮装置を用いたさらなる高磁場までの磁化測定によって、200~250テスラの磁場領域における磁化の異常が初めて観測された。これは、1/2プラトー相を抜けて磁化が増加していく過程で何らかの逐次相転移が起きていることを示唆する。また、最も強い反強磁性交換相互作用を有するLiGaCr4O8に対しても磁化・磁歪測定を行い、160~170テスラの磁場領域で二段階の磁化のとびを伴う逐次相転移が初めて観測された。後者の磁化過程の振る舞いは、従来型のクロムスピネル酸化物では観測されていなかったものである。そこで、スピン-格子結合を取り入れたブリージングパイロクロア格子反強磁性体における磁場誘起相転移の理論研究を行った。その結果、強いブリージング性とスピン-格子結合を導入した場合に、理論的にもLiGaCr4O8の特徴的な磁化過程を再現できることが明らかになった。以上の実験・理論からの相補的な研究によって、ブリージングパイロクロア格子磁性体に特有の新規磁気相の発現を実証した。 実験技術開発の観点からも、数年にわたる試行錯誤が実り、電磁濃縮装置におけるピックアップコイルを用いた精密磁化測定を世界で初めて成功した。また、磁歪測定についてもパルス強磁場下で汎用的に使用可能なプローブを自作し、様々な試料に対する測定を推進した。これら両測定手法は、単結晶の合成が困難な多結晶粉末試料に対しても適用可能であり、強磁場下での物性研究へのさらなる応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化物Li(In, Ga)Cr4O8については、当初計画していた物性測定が概ね完了しており、最終目標の一つであったブリージングパイロクロア格子磁性体に特有の新規磁気相をLiGaCr4O8において発見することができた。また、並行して進めた理論研究もほぼ完成に至り、実験で観測された新規磁気現象の起源が理論的にも説明可能であることを示した。以上の観点から、本研究課題は比較的順調に進展していると考えている。 また、フラストレート磁性の研究に関連して、当初の研究計画では予定していなかった異方的三角格子量子磁性体のRe化合物に対する強磁場磁化測定にも着手し、順調に進展している。 一方で、ブリージングパイロクロア格子系に対する学術的な関心は近年さらに増しており、ブリージングパイロクロア格子を有するクロムスピネル化合物の研究は酸化物のみならず硫化物への展開も進んでいる。この流れに乗って、今後も引き続きクロムスピネル系の磁場中における詳細な物性開拓を推進していく。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から継続して、酸化物Li(In, Ga)Cr4O8に対する強磁場下での物性測定を行う。現時点で、両物質とも1/2プラトー相の終端磁場が正確には決定できていないので、これを電磁濃縮装置を用いた磁歪測定によって解明する。本物質群は、強いスピン-格子結合のために、磁化の増加に呼応して格子が逐次的に膨張するので、誘導法磁化測定が困難な高磁場領域においても磁歪をプローブとした相転移の検出が可能であると予想される。 また、Li(In, Ga)Cr4O8の類縁物質であるクロムスピネル硫化物CuInCr4S8の磁場誘起物性のさらなる開拓を進める。本物質は、ブリージングパイロクロア格子を形成する小さい四面体内で反強磁性、大きい四面体内で強磁性の交換相互作用が働く非常に稀有な系であり、すでに一巻きコイル装置を用いた磁化測定によって酸化物と同様に幅広い磁場領域で1/2プラトーを発現することを明らかにしている。今後は、磁化と磁歪の詳細な温度依存性測定によって、温度-磁場相図の作成を行う。また、新たにCuInCr4S8の純良単結晶試料の合成を行って、パルス強磁場中でのNMR測定による各相における磁気構造の決定や、誘電率・電気分極測定による電気磁気効果の解明を試みる。
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