本年度は昨年度得られたネルンスト効果の圧力依存性についての結果をまとめ、学術論文投稿を行った。また、圧力下での電気抵抗率測定を行い、ホール効果についても圧力印加に伴って、磁場依存性が変化していることを明らかにした。ネルンスト効果、ホール効果の両方の現象で特異な磁場依存性が現れたことから、これらはノーダルラインフェルミオンの持つベリー曲率を反映した現象であることがより強く示唆された。この結果からノーダルラインフェルミオンの特性の一端が明らかとなった。さらに、これらの現象がノーダルラインフェルミオンに普遍的な現象であることを調べるべく、ノーダルラインフェルミオンの数が減少したInTaSe2や、類似した電子構造を持ちながらもノーダルラインフェルミオンが存在しないPbTaS2の合成を行い、そのネルンスト効果、ホール効果の測定を試みた。InTaSe2についても単結晶が得られたものの、物性測定は困難な結晶のサイズであった。PbTaS2については単結晶合成の結果、最大2 cm四方の大きな単結晶を得ることに成功したものの、化学気相法による単結晶化の際に用いた塩素が結晶中に取り込まれていることが分かった。塩素ドープによって電子状態は理論計算から推定されるものとは違っている可能性があるが、そのネルンスト効果、ホール効果を測定した結果はシンプルな通常電子モデルで説明可能なものとなっており、PbTaSe2で観測された特異な磁場依存性がノーダルラインフェルミオンと関係していることを補強する結果が得られた。 またFe3GeTe2についても異常ネルンスト効果の測定を行った結果、バルク結晶では単原子層の異常ネルンスト効果とは温度依存性や信号の符号が異なる結果が得られ、単純な線ノード構造による異常ネルンスト効果ではない可能性が明らかとなった。
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