熱電材料の性能は,出力因子 PF (= S2σ) で表される.ここで,Sとσはゼーベック係数と電気伝導率である.本研究の目的は,PFが高いp型のフルホイスラー熱電材料を創製することである.今年度は,アンチサイト欠陥の導入(規則度の制御)と部分置換で,キャリア密度の最適化による PF の向上を試みた. 作製条件を調整することで,Mn2VAlにアンチサイト欠陥を導入した.Sはアンチサイト欠陥量の調整によって最大値を得た.計算値と実験値を比較した結果,アンチサイト欠陥の導入によるキャリア密度の増大がSの増加に大きく寄与していることがわかった. Si元素部分置換でキャリア密度を最適化することで,PFの向上を試みた.このPFの値は,これまでに報告されたMn2VAlの中で最も高い値であった.また,構造解析の結果,Siで部分置換したMn2VAlフルホイスラーにもアンチサイト欠陥が存在していることがわかった.結果として,アンチサイト欠陥があるSi部分置換のMn2VAlで,無置換より4倍高いPFを得た. 構造解析を用いて,Mn2CoAlは予想的なスプンギャプレス半導体からハーフメタルの構造に変化してることがわかった.また,元素部分置換でアンチサイト欠陥が存在していると電子構造が変わることがわかった.結果として,高い性能を持つMn2CoAlフルホイスラーを作製するため,アンチサイト欠陥の制御が必要であることが初めて判明した.研究成果は,英語論文で報告した. 以上の通り,Mn2VAlにおけるアンチサイト欠陥の導入と部分置換によるPFの増大を実証し,熱電性能を大幅に増大できることを示した.Mn2CoAlにおけるアンチサイト欠陥の制御と部分置換による熱電性能を大幅に増大できることを示した.有望な熱電材料の1つであるフルホイスラーの高性能化のみならず応用物理の発展に寄与するところが少なくない.
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