トキソプラズマはヒトを含めた哺乳類と鳥類のほとんどに感染する、人獣共通感染症の原因となる原虫である。本寄生虫は生活環の中で度々形態を変化する特徴があり、慢性感染期にはシストとよばれる多数の虫体を壁が取り囲んだシストという構造体を、宿主の脳や筋肉中で形成する。このシストからの脱出は、感染の成立および免疫不全症例の致死的病態に直結する現象である。しかし、その引き金となる環境因子はこれまで不明だった。本研究ではこのシスト脱出の引き金となる環境因子の同定、およびその機序の解明を行った。本虫のシストは通常宿主細胞内に存在しており、シスト脱出が主におこる捕食された際には細胞外への流出が想定されるため、この細胞外流出がシスト脱出の引き金となる刺激ではないかと考えた。このために、宿主感染マウスの脳からシストを抽出しin vitroでシスト脱出を評価できる系を樹立して検証したところ、細胞外の電解質組成である高ナトリウム・カリウム比およびカルシウムの存在がシスト脱出の引き金となることを明らかにしていた。また、組織中の酸性度はシスト脱出を阻害することも明らかにした。併せて、シスト脱出の際にブラディゾイトとタキゾイトのどちらの形態であるかを評価した。このために形態特異的に蛍光する遺伝子組み換え虫体を作成し、検証した。結果シスト脱出以前にブラディゾイトからタキゾイトへの分化が完了していた。細胞膜電位に影響するナトリウム・カリウム比とカルシウムが関与していることから、本虫は電位依存性カルシウムチャネルを用いてこれらの因子を感知しているのではないかと考え、現在は電位依存性カルシウムチャネルノックアウト株を作成中である。いくつかのトキソプラズマの系統ではノックアウトのベクター導入が成功しなかったため、以降はこの条件検討を行っていく予定である。
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