本研究は、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスを主たる対象とし、第一の主著『全体性と無限』(1961)を経て、第二の主著『存在の彼方へ』(1974)に至るまでのレヴィナス哲学を、〈時間〉という観点から統合的に解釈し直すことを目的としている。その際本研究は、 (1)記述分析の方法として現象学的時間論を検討しつつ、(2)反ヘーゲル主義の観点から過去を、(3)倫理的関係を巡る問題から現在を、(4)エロス論の時間論的読解から未来の位相を考察するという四つの課題を遂行することで、研究目的の達成を目指している。 前年度には(2)および(3)の研究課題に従事したため、本年度は残りの(1)および(4) に取り組み、それぞれ査読論文(ないし査読通過、掲載決定済み)として成果を残すことができた。一つ目の論文は、「抵抗と赦し──『全体性と無限』における繁殖性の二元性」(『哲学』第73号、2022年)であり、これまで専門家のなかでも解釈が割れていた『全体性と無限』の繁殖性という主題に関して、先行研究の課題を適切に指摘した上で、新たな読解方針を提出した。 二つ目の論文である「後期レヴィナスにおけるフッサール解釈と隔時性の生成」(『現象学年報』vol. 38、掲載決定済)は、中期から後期におけるレヴィナスの思想変遷をこれまでの研究では見失われがちであった、レヴィナスによるフッサール現象学の時間論読解から析出した。 また、前年度に執筆した論文「レヴィナスにおける反-歴史論の展開と変遷」(『倫理学年報』第70集)は、2021年10月に日本倫理学会の和辻賞(論文部門)を受賞し、狭義のレヴィナス研究だけでなく、哲学・倫理学分野全体においてもその価値が認められたと言える。
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