研究課題
本研究では、海底に設置された地震計で取得した地震波データを解析し、太平洋下の海洋マントル構造の解明を目指している。当該年度の研究では、おもに二つの成果があがった。一つ目は、表面波アレイ解析を用いて太平洋最古の海洋底における地震波速度構造を推定したことである。本研究の独創的な点として、採用前の研究で開発した手法を応用し、地震波データのノイズレベルを大幅に低減したデータを解析で使用したことがあげられる。その結果、従来の研究では深さ200 kmまでの解析が限界であったが、本研究では深さ300 kmまでの構造を推定した。さらに、得られた結果を理論的なマントルの熱構造モデルと比較した。一般的に、海洋マントル内の地震波速度は年代に応じて速くなる傾向にあるが、当該海域で得られた表面波の分散曲線は年代から予測される理論値よりも遅い傾向にあり、マントルにおける熱的擾乱の存在が示唆される結果となった。これは、本研究が目指すプレートの底におけるマントルの状態を直接観測から制約できる可能性を示すものである。二つ目は、火山性振動の発見である。主目的となる研究を遂行する過程で、西中央太平洋の海底地震計データに、特定周期に卓越した持続的な信号が存在することを見出した。陸上観測データも含め解析した結果、信号はおよそ2000 km離れた巨大火山の特異な振動現象であることを突き止め、国際学術雑誌(Geophysical Research Letters)にて成果を発表した。当該海域における同様の地震波信号の存在は古くから報告されてきたが、陸上での観測に限定されており、また信号の起源についても直接的な証拠は存在しなかった。本研究によって、初めて海底地震計を用いた信号の観測や解析がおこなわれた。加えて本研究では火口付近のデータも解析することで、信号の起源を観測データに基づき制約した。
2: おおむね順調に進展している
表面波アレイ解析により、太平洋最古の海洋底における地震波速度構造を明らかにした。本研究では採用前の研究で開発した手法を応用し、ノイズレベルが大幅に低減されたデータを解析で使用した。その結果、従来の研究では深さ200 kmまでの解析が限界であったが、本研究では深さ300 kmまでの構造を推定できた。また観測結果(表面波の分散曲線)が熱構造モデルに基づく理論値よりも遅いことを定量的に示し、上部マントルの低速度層内に熱的擾乱が存在する可能性を指摘した。一連の研究成果は国際学会(AGU Fall Meeting)にて発表された。上記に加え、海底地震計データに火山性信号が存在することを見出し、国際学術雑誌(Geophysical Research Letters)にて成果を発表した。これは当初の計画にはなかった発見的研究成果である。以上の通り、特別研究員として採用後、主目的の達成に向け着実に研究を進め成果発表をしている上、想定外の発見的研究成果もあげており、順調に進んでいるものと考える。
昨年度より引き続き、太平洋最古の海洋底の地震波データを解析する。本年度では特に、表面波の1種であるラブ波位相速度計測手法の確立を目指す。ラブ波の位相速度計測については、解析上の難しさから、従来の研究でも利用が避けられてきた。しかし近年、所属研究室で進められてきたラブ波の理論研究によって、従来の解析上の困難を克服しうる手法が提案された。本研究ではその理論研究を土台に、実際の観測データを用いて計測手法の確立を目指す。次に、得られた表面波位相速度を使い、対象海域における異方性構造(波の速度の伝播・振動方向への依存性の深さ分布)を推定する。そしてこれらの結果と、同海域で得られた電磁気データによる結果を併せて、複数のマントル熱構造モデルと比較する。同時に、開発した手法を、太平洋上の異なる年代の他海域における観測データにも順次適用していく。これらの解析結果を総合的に解釈し、プレートの底を含めた海洋マントル構造の成長過程の解明を目指す。
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Geophysical Research Letters
巻: 47 ページ: -
10.1029/2020GL089108